約 773,952 件
https://w.atwiki.jp/live2ch/pages/318.html
トップ ライブ配信カテゴリ概要 ゲーム配信のやり方 ニコ生で必要なもの / 2022年08月12日 (金) 04時35分11秒 これだけ!ニコ生の配信で必要になるものを確認しよう! このページでは、ニコ生でゲーム配信をするにあたり必要なものについてまとめています。 PCの使用を前提としています。 以前まで、ニコ生でPC配信できるのはプレミアム会員だけでした。しかし、2019年8月28日からは一般会員でも配信できるようになりました。 目次 配信ソフトが必須 ゲーム画面を視聴者に見せたい据置型ゲーム機の画面 携帯型ゲーム機の画面 スマホの画面 PCゲームの画面 BGMとマイクの音を視聴者に聞かせたい マイクで声を入れたい マイクの音を高音質にしたい コメントを音声合成で読みあげさせたい Webカメラの映像を配信したい 関連ページ 配信ソフトが必須 ライブ配信をするために必要不可欠な存在といえるのが、配信ソフトです。外部ツールなどとよばれることもあります。ニコ生で配信するなら、配信ソフトを用意しましょう。 ▲配信ソフトのN Air 配信ソフトは、配信を開始・終了するために必要です。また、配信ソフトの重要な役割として、配信者のPCの画面に映っているものを視聴者にも見せることができる、というのがあります。たとえば、配信者のPCにゲーム画面が映っているなら、その画面を視聴者にも見てもらえるわけです。 ゲーム配信をするなら、まず(1)ゲーム画面を自分のPCに映し、つぎに(2)ゲーム画面を視聴者に見せるための設定を配信ソフトで行う、という2段構えになることを覚えておきましょう。(1)については後述しますが、ゲーム機によって方法が異なります。いずれにせよ、ここで重要なのは配信ソフトがあればPCに映っている画面を配信できるということです。 配信ソフトには、いくつか種類があります。もし配信自体が初めてなら、公式配信ソフトであるN Airがよいかもしれません。 解説記事 備考 N Air こちら 公式配信ソフトだが、他サイトでも使える OBS Studio こちら 定番中の定番 XSplit こちら OBSと2大巨頭、有料 ▲画面の上へ ゲーム画面を視聴者に見せたい ゲーム配信では、配信者のPCにゲーム画面を映す必要があります。そして、その画面を配信ソフトで視聴者に見せることになります。 据置型ゲーム機の画面 SwitchやPS4など、据置型ゲーム機のゲーム画面をPCに映すためには、キャプチャーボードという周辺機器が必要です。たとえば、ゲーム機とキャプチャーボードをHDMIで、キャプチャーボードとPCをUSBでつなぎます。すると、PCにゲーム画面が映り、PCからゲーム音が出るようになります。 注意したいのですが、ゲーム機とTV(モニター)を接続するわけではありません。また、ゲーム機とPCを接続するわけでもありません。この2点は誤解する人が多いので、きちんと理解しておきましょう。 キャプチャーボードを購入するときは、どのゲーム機に対応しているか確認します。SwitchやPS4には対応していても、WiiやPS2には対応していないキャプチャーボードもあります。また、キャプチャーボードには遅延があるので、どのように対策するかという点も考えておきましょう。 キャプチャーボード、およびキャプチャーボードの選び方を参照 Game Capture HD60 S GC550 PLUS GV-USB3/HD 価格商品画像のリンク先 PCとの接続 USB 3.0 USB 3.0 USB 3.0 対応ゲーム機(接続できるゲーム機) ・PS4・Switch、Wii U・Xbox One、Xbox 360 ・PS4・Switch、Wii U・Xbox One、Xbox 360 ・PS4・Switch、Wii U・Xbox One、Xbox 360 TVへのゲーム画面出力 ○ ○ ○ こちら こちら こちら 特徴 低遅延 筆者お薦め 編集ソフト付属 携帯型ゲーム機の画面 3DSについては、キャプチャーボードと接続することはできません。3DS自体にキャプチャーデバイスを取り付け(改造)、3DSとPCを直接USB接続する必要があります。そうすることで、3DSの画面と音をPCに出すことができるようになります。 3DSの画面を録画・配信する方法を参照 スマホの画面 スマホの画面をPCに映すには、ミラーリングソフトが必要です。ミラーリングソフトをPCにインストールして必要な設定をすれば、無線でスマホの画面をPCに映せます。スマホの操作自体は、スマホで行います。 iPhoneなどの画面を録画・配信する方法、またはAndroid端末の画面をPCで録画・配信する方法を参照 PCゲームの画面 PCゲームの場合も、キャプチャーボードは必要ありません。ゲームを起動すれば、PCにゲーム画面が映るからです。 ▲画面の上へ BGMとマイクの音を視聴者に聞かせたい 配信者がPCで再生している音、および配信者がPCに接続しているマイクの音(自分の声)は、配信ソフトを使えば配信に乗せることができます。配信ソフトで簡単な設定をするだけですみます。 配信者がPCで再生している音としては、たとえばPCから出ているBGM、ゲーム音、Skype・Discordの通話相手の声などをあげることができます。配信者がPCで聞いている音は、視聴者にもすべて聞いてもらえると考えて差し支えありません。 かつては、こういったことをするためにステレオミキサー機能を使っていたのですが、現在は必要ありません。 ▲画面の上へ マイクで声を入れたい PC用マイクがあればマイクで声を入れることができます。マイクはノートPCに内蔵されていたり、あるいはWebカメラに内蔵されている場合がありますが、音質と利便性の観点からは別途用意したほうがよいでしょう。PC用マイクは安いものであれば1,000円くらいから購入できます。 PC用マイクを選ぶさい、ヘッドセットタイプとスタンドタイプのどちらにしようか迷うかもしれません。前者はヘッドフォンとマイクが一体となったタイプ、後者はマイクが独立しているタイプです。しかし、どちらも一長一短です。それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで判断するようにしましょう。 実況用PCマイク、PCマイクの選び方、およびPCマイクの製品例を参照 G231 ECM-PC60 ECM-PCV80U 価格商品画像のリンク先 特徴 ・人気のヘッドセット・詳細 ・超小形サイズ・詳細 ・ソニーの定番マイク・詳細 タイプ ヘッドセット スタンドマイクピンマイク スタンドマイク ▲画面の上へ マイクの音を高音質にしたい マイクの音質はとても重要です。なぜなら、マイクの音質が悪いと視聴者はストレスを感じやすいからです。とくに視聴者が気にする音のひとつは、マイクの「サーッ」というノイズです。配信者の声を聞きたいのにノイズがうるさい、これは避けたいところでしょう。音はクリアであるべきです。そこで、オーディオインターフェースという機材を使って対策します。 オーディオインターフェースを参照 歌配信、ゲーム配信でプロのようなマイクを使っている配信者を見たことがあると思いますが、あのマイクはオーディオインターフェースに接続されています。彼らは、ノイズ対策として機材を購入しているわけです。そのほか、歌声にリバーブ(エコー)をかけたいという場合や、マイクの音量が小さくて困っているという場合にも、オーディオインターフェースは有用です。 UR12 AG03 US-32 US-366 価格商品画像のリンク先 特長 ・コスパがよい ・直感的な操作・リバーブ機能・正確にはミキサー・ゲーム実況に ・効果音を一発再生・ボイチェン機能・リバーブ機能・最高のコスパ ・エフェクトが充実・リバーブ機能 PCとの接続 USB 2.0 接続可能なマイク ・ダイナミックマイク・コンデンサーマイク ・ダイナミックマイク・コンデンサーマイク・PCマイク ・ダイナミックマイク・コンデンサーマイク・PCマイク ・ダイナミックマイク・コンデンサーマイク ループバック機能 対応 24bit/192kHz 対応 対応 非対応 対応 付属DAWソフト Cubase AI 7 Cubase AI 8 ・Cubase LE・Cubasis LE こちら こちら こちら ▲画面の上へ コメントを音声合成で読みあげさせたい コメントを直接目で確認して読む時間がない、あるいはその時間が惜しい場合、音声合成によってコメントを読みあげさせることができます。方法としては、コメントビューア(コメビュ)と、棒読みちゃんを組み合わせて実現します。 コメントビューアというのは、コメントを確認するためのアプリです。たとえば、ニコ生コメントビューア(略称NCV)や、やります!アンコちゃんがあります。コメントビューアがなくてもコメントは確認できるのですが、便利な機能がたくさん搭載されているために使う人がいるのです。 NCV やります!アンコちゃん コメントを音声合成で読みあげさせるためには、コメントビューアを導入したうえで棒読みちゃんと連携させます。連携といってもコメントビューアで簡単な設定をするだけです。音声合成でコメントを読みあげさせたいなら、まずはコメントビューアを使いこなせるようになることが重要です。棒読みちゃんを単体で使用するわけではありません。 ▲画面の上へ Webカメラの映像を配信したい Webカメラで映している映像を配信するにはWebカメラが必要です。最近のWebカメラは、マイクを内蔵しているか、またはイヤフォンマイクを付属しています。そのため、とりあえず雑談配信をしたいという場合はWebカメラがあればすぐにでも配信可能です。WebカメラはUSB接続できます。 最近のWebカメラは以前よりも使いやすくなっています。画質もずいぶん向上しました。インターネット上のレビューを参考にすれば、どのWebカメラを購入しても大きなハズレを引くことは少ないでしょう。ニコ生だとロジクールというメーカーのC920が人気です。Webカメラとして最高クラスの画質です。 Webカメラ、またはC920を参照 ▲画面の上へ 関連ページ ゲーム実況で必要なPCスペックと、おすすめPCの選び方ゲーム実況で使うPCについて理解しよう! ゲーム配信で必要になるものあらゆる配信サイトに対応!ゲーム配信で必要なものを準備しよう Switch用に、どのキャプチャーボードを購入すべきかSwitchのゲームを実況する場合の、キャプチャーボードの選び方 リバーブ(エコー)をライブ配信でかける方法生放送で声を響かせたい!じつは簡単にできる最新の方法 実況用PCマイク/こんなときはPC用マイクについてのFAQ ▲画面の上へ 名前 コメント 今も昔も結構お金かかるんだねえ 大体今はキャプチャとマイクとオーディオで35000円くらいか -- 名無しさん (2022-08-12 04 35 11) 丁寧な説明ありがとうございました。8年後にマサという実況者を見つけたら、是非是非みてください( ´ ▽ ` )ノ -- マサ(仮) (2016-04-16 17 29 18) よくわかりましたぁ。ありがとうございます??これを参考にしてみます -- しお (2015-05-10 22 31 20) ニコ生配信したくなにがいるのか わからなかったのですが 参考になりました -- 名無しさん (2013-06-02 23 14 48) 今は、中学3年生なんですが 高校生になったら、ニコ生をはじめようと考えています^w^ このページを参考にさせていただきます/// 多様な情報提供を、ありがとうございますねw -- 雨音セロリ# (2012-08-15 19 19 40)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/846.html
「涼宮!付き合ってくれ!」 「いいわよ」 俺はショックを受けた。なんとあの谷口がハルヒに告白したのだ。しかも俺の目の前で… ハルヒは断ると思っていた。告白してきた奴らに全てOKを出してきたのは知ってたが、あいつはSOS団の団長として日々を過ごすうちに変わっていたからだ。 俺はショックだった。 なんか宙に浮いてるような感じ?嫌違うか。 とにかくハルヒは谷口の告白にOKを出したのだ。 「ほんとか!イヤッホーィィィ!!!」 あほが叫んでいる。 「それじゃあね。いくわよキョン!」 「お、おう…」 「なぁハルヒ。なんでOK出したんだ?」 「う~ん。谷口のあほには一度中学ん時告られたんだけど…」 やはりか。 「高校になって少しは面白くなってるかもしれないじゃない?だからよ」 「そうか…」 俺はショックを受けてはいたが、別に嫉妬しているわけではない。本当である。この時はどうせ三日もすれば終わるだろう。 などと夏休みの宿題並に楽観的に考えていたからである。 しかし、谷口とハルヒは二週間しても別れることはなかった。 「ずいぶんと長く続いてるじゃないか」 「それがねキョン!谷口って案外面白い奴なのよ!」 谷口がおもしろいのは知っている。「チャック谷口」最近の奴のあだ名だ。 このあだ名に行き着くまでにいろいろとあったのだが…言うのはかわいそうだからやめておこう。 「今までで一番続いてるんじゃないか?いつ別れるんだ?」 「何それ?早く別れてほしいみたいに」 ハルヒが少し怒っている。 「あっ、いやすまん…」 「あっ!妬いてんのねアンタ!かわいいやつねぇアンタも。べつに谷口にかわっ」 「ちげぇよ!!」 妬いてると言われてすぐに否定した。最後のほうの言葉はよく聞き取れなかった。 「そ、そう…」 心なしか残念そうに見えたのはきのせいだろう。 「今日は谷口と帰るから、SOS団は休み!あんたがどいしてもって言うんならやってあげてもいいわよ!」 「いや、休みで」 休みになるなら万々歳だ。ちょうど今日は休みたかったところだ。 「そう…じゃあ帰る…」 「おう、じゃあな」 「ハ、ハ、ハ、ハルヒちゅわ~ん」 あほめ とりあえず俺は部室に来ていた。SOS団の活動は休みという朗報を伝えるためと、朝比奈さんのお茶を飲むためだ。 「ちわー」 「あ、キョンくん。今お茶いれますね」 「こんにちは。いい天気ですね」 「…」 「今日は休みだそうだ」 「そうですか。それは都合がいいですね。僕たち三人の話を聞いてもらえますか?」 「なんだ?早く話せ」 「あのですね、キョンくん。言いにくいんですけど…あたし達全員キョンくんをそんなに重要な人物としてみなくなったの…」 「どういうことだ?」 何を言ってるんだ?よくわからん。 「つまりですね。谷口と付き合うことで涼宮さんがSOS団をやめると言っても僕らはとめません。」 「なんでだ?」 「言ったじゃないですか。あなたより谷口のほうを優先するようにしたんですよ。ねぇ長門さん」 「そう」 「なんだよ長門まで…どうしたってんだよ…」 「不確定因子があなたから谷口に変わった。それだけ。情報統合思念体は谷口とより深く関わるようにと言っている」 「つまり、あれか。俺を見捨てるのか。なんだよそれ……」 「まだチャンスはあります。あなたが涼宮さんを谷口から奪ってしまえばいいんですよ」 「そんなことできるかよ…」 「では仕方ありませんね」 「ちくしょう!もうこんな団はやめてやる!」 バタン 「やれやれ、鈍い人ですね。まったく」 「本当ですね。キョンくんって天然なのかな?」 「……失望」 なんなんだよあいつら!くそっ!胸糞悪い! 「寝るか…」 その時携帯の着信音がなる。 キレテナイッスヨ、キレテナイッスヨ むかつく着信音だ。後で変えよう。 「もしもし」 「よぉ、キョン」 「谷口か…」 「なんだよ、くれぇーな。とりあえず聞いてくれよ~国木田は聞いてくれないからさ~」 「なんだ、早く言え。俺は眠いんだ」 「それがよ~ハルヒの奴めちゃくちゃかわいいんだぜ~」 ぶっ殺してやろうかと思ったね。 「のろけなんか聞きたくない。じゃあな」 「おいおい、待てよ。本題はそこじゃない。聞きたくないか?」 「……早く言え」 「俺やっちゃったんだよ~」 「………何をだ?」 マサカナ… 「決まってるだろ~セクロスしかねぇじゃん。気持ち良かったぜ~それでさー」「てめぇ!!!!!」 「な、どうしたんだキョン?!」 「明日学校で話そう」 「は?」 「教室に朝早くこい」 「はぁ?わかった…」 プッ 谷口の野郎、ちくしょう…なんだよ俺…バカみたいじゃねぇか…… なんで涙が…くそっ!止まらん。 「ちくしょう……」 「キョンくん、ごはーん!」 「いらん!!」 「お母さ~ん!キョンくんが不良になっちゃったー!」 もう寝よう…明日にそなえて……… 指定した時間に谷口は来た。 「なんだよキョン。どうしたんだ?」 「お前に聞きたいことがある。」 これだけは聞いておきたい 「ハルヒのこと本当に好きか?」 「はぁ?なんでそんなこ」 「好きか嫌いか答えろ!」 「なんだよいったい…そりゃあ好きだけど…」 「好きだけどなんだ?」 「もう目的は達成したからなぁ。セクロスしたし。別に別れてもいいぜ!わかった!お前涼宮のこと好きなんだろ!早く言えよ~付き合えよ!俺は身を引いてやるからさ」 もうがまんできん。 「このヤロウ!」 俺は殴りかかった。その時だ 「やめて!!」 そこにはハルヒが立っていた… 「ハルヒ……」 「もうやめてよ…キョン…ごめんね谷口。もういいよ…」 「ああ…わかった…まさかこんな形になるとはな」 「何言ってるんだ?お前ら」 「やぁこんにちは」 「ごめんなさい、キョンくん」 「…」 なにがなんだかわからない 「あのね、キョン。これはドッキリなの…」 「はぁ?!!」 「僕が提案したんですがね、ドッキリなんですよ。あなたならもう少し違った感じになると思ったんですが…例えば涼宮さんに告白するとか……」 「キョンくん鈍いんだもん」 「ホントよ!全くバカね!!」 「ドッキリですが、あなたが涼宮さんに告白したらドッキリとは言わないようにしていたんです。」 「あ、あんたのせいだからね!まったく…」 「ハハハ」 なんだ。ドッキリかよ… なんだろうこの気持ち… もの凄く安心している。 ああそうか。 「俺はハルヒが好きだったんだな」 「えっ!」 「ハルヒ。俺お前が好きだ」 「なにぼけてんのよ!ドッキリだったって言ったでしょ!」 「違うんだ。わかったんだよ。俺は本当にお前のことが好きだったんだなって。」 「キョン……私も………」 「ハルヒ。付き合ってくれないか?」 「かぁ~妬けるねぇ~」 「谷口くんにはがんばってもらいました。一つだけを除いて」 「そうですよ。まさかやっ…たなんて言うなんて」 「そうよ!アホ谷口!バカ!」 「な…なんだよ…」 「じゃあ谷口くんは僕が預かりますからどうぞ続きを…」 「じゃあ私たちも…」 「…コクン」 みんなでていった。 「キョン。ごめんね」 「いいさ。後で谷口には謝らないといけないな」 「それはいいわよ」 「そうだな」 プツ 「アーハッハッ!!」 二人で大笑いした。 さっきまでの気分が嘘のように晴れやかだ。 「ところでハルヒ。さっきの返事は?」 「さっきのって?」 とぼけてやがる。 「付き合ってくれ」 「いいわよ!な、なによ!ただあんたなら面白いかなと思っただけなんだから!!」 「そうかい」 「よかったですね、長門さん」 「少し残念…」 こうして俺とハルヒは付き合うこととなった。 なぜか古泉と谷口の関係が深まったような気もするが… これからはずっと過ごしていけるだろう。 いつもとちょっと違った日常をさ………… 涼宮ハルヒの変貌 完 PS谷口くんの口癖が 「ア、ア、ア、アナル~」になりました。
https://w.atwiki.jp/efflimited/pages/244.html
オプションカッパとは,オプションのリスク指標の一つで,オプションの価格感応度のことを指す. 単にカッパと呼ばれることが多いが、別名 ベガ(Vega)、ラムダ(Lamda)とも呼ばれる。 カッパの値が高いほど、原資産価格の変動に対するオプション価値の変動が大きくなる。 すなわち,カッパ=オプション価格の変化額÷ボラティリティの変化幅 [M] /
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2285.html
百物語というものをご存知だろうか。 一人ずつ怪談を話し蝋燭を消していき、100話目が終わった後に何かが…!!というあれである。 俺は今まさになぜか部室でハルヒと愉快な仲間たちとともにそれをしているわけだが、何故そのような状態 に至ったのかを説明するには今から数時間ほど遡らなければならない。 ______ 夏休み真っ盛りのその日、俺はそろそろ沈もうかという太陽の暑さを呪いながらニュースを見ていた。 東北の某都市ではいまごろ七夕祭りをするのだなあ、などといつかのことを思い出しながら今まさに瞼の 重量MAXに至らんとしたその時、携帯が盛大にダースベーダーの曲を奏でた。 ハルヒだ。 市販されているどのカフェイン飲料よりも効く恐怖の音色によって冴えた頭で出ようか出まいか一瞬迷った後、 恐る恐る携帯を手にした。 「あ、もしもし?キョン今暇?」 恐ろしく不躾な第一声、間違いなくハルヒである。 いーや、今まさに夏休みの課題に取り組もうと今年一番のやる気を出していたところだぜ。 マシンガンに対し襖の盾を構える様に、ささやかな抵抗を試みる。 「ちょうどいいわ、そんなのやめて駅前に集合!」 何が調度いいのだろう、などと問うのは風呂上りに鏡の前でポーズをとるよりも時間の無駄というもんだ。 相手はハルヒなのだから。 駅前に着くと、時をかける美少女こと朝比奈さんが小さく手を振って俺を迎えてくれた。 「あ、キョン君、こんばんは…!」 純白のワンピースに可愛らしいポーチ、なんという麗しのお姿、もしかしてあなた未来人じゃなくて 天使か何かなんじゃないですか? 「私突然呼ばれて…キョン君は何するか聞いていますか?」 あいつが突然じゃないことなんてないんですよ、朝比奈さん。 ついでに言うとあいつの頭の中に何か計画があるのかも怪しいもんだ。 「ヤッホー!」 話題の主が何故か胡散臭い笑顔と鉄仮面を引き連れてやってきた。 「いやあ、涼宮さんと長門さんと電車で一緒になったもので。」 お前には聞いてないけどな。夏休みの、しかもこんな暗くなるような時間から何しようってんだ、ハルヒ。 「うんうん、みんな行動が迅速でとても良いことだわ。SOS団の未来も明るいってものよ!」 聴いてないな。 「失礼ね、ちゃんと聴いてるわよ。これからみんなで百物語をやります!」 帰っていいか。 「夏といえば怖い話。怖い話といえば百物語。百物語といえば学校よ。そういうわけで今から部室に行って 納涼百物語大会を行います。」 朝比奈さんは既に怯える準備万端、古泉はいつもどおりのインチキ笑顔、長門は幽霊のように冷たい無表情でハルヒを見つめていた。 意外と長門は読書で得たネタがあるかもしれないなと考えそうになったが、つっこみ担当の脳内俺がそれを遮った。 ちょっと待て、こんな時間に学校に忍び込んだのが見付かれば、バニーガールの時よろしくまた何を言われるか… 「大丈夫、ちゃんと昼間のうちに部室の窓の鍵は開けておいたわ。窓から縄梯子を垂らして、蝋燭も用意しておいたから完璧よ。」 どこからそんなもんを調達…じゃない、つっこむべきはそこじゃない。 何が大丈夫なんだ、ハルヒ。こいつの思考がわかる奴がいたら「機関」とか言う変態組織から表彰されるかもな。 俺だったら、たとえ古泉に土下座されてもいらないが。 「いいんじゃないですか。怪談、僕は嫌いじゃありませんよ。幽霊というものにも少し興味があります。」 少しは躊躇しろ、このニヤケヅラ。 「ふぇ…幽霊…出るんですか、百物語ってなんなんですか…。」 今にも泣きそうな朝比奈さん。大丈夫です、あなたのことは俺が命に代えても守ります。 いつかのクラスメイトによる俺殺害未遂に比べれば幽霊なぞ。 「……」 メンバー中最も幽霊に近い存在のような気がする宇宙人製有機ヒューマノイドインターフェースは、 なにやら不気味な表紙の本を読むのに忙しいようだ。何読んでるんだ? 「……これ」 えーと、いながわじゅん…… !? やる気か、長門。 はあ、何も起きないでくれよ。もしものときは頼むぜ、長門。 ハルヒの場合、幽霊どころかヤマタノオロチを召喚するなんてことは十分あり得るからな…。 というわけで、俺たちは夜の学校に忍び込み、百物語に挑戦しているわけだ。 しかし、5人で100話、一人20話の割り当てだ。正直、俺はそんなに話すネタを持っていない。 どこかで聞いたような、しょうもないネタを披露するといった具合だ。 ある種のオカルトマニアのハルヒと、今まで読んだ本を積み上げると富士山すら凌駕するであろう長門は、 順番が来ると躊躇なく話し始める。長門の話はどちらかというと、都市伝説のような気がするのは、この際目を瞑ろう。 古泉は少し考えた後に無難な怪談を語っている。こいつのことだ、即興で考えた嘘話だろう。 朝比奈さんはというと、専ら悲鳴あげ係である。話せるネタもないようで、ハルヒか長門が代わりに話している。 何なんだこの2人は。 さて、そろそろ納涼百物語大会(命名:ハルヒ)も佳境である。 最後の100話目を俺が話そうとしたところ、ハルヒに権利を奪われた。 曰く、イベントのおいしい所は団長の物なんだそうだ。 俺にとってはおいしいかどころか、不味い役回りだったので有難い。蓼食う虫もびっくりだぜ。 「それじゃあ、最後の怪談、いくわよ。 皆、この1年5組の教室に実しやかに囁かれる噂を知ってるかしら。あの教室はね、いわくつきの教室なの。 あたし達が入学するよりもずっと前、一人の男子生徒の遺体が発見されたの、胸にコンバットナイフを突き刺されて。 特に恨みを買うようにも見えない、ごく普通の男子生徒だったらしいわ。その子が殺される前日、 ラブレターを貰ったと言って浮かれてたという証言もあって、事件との関連性を疑われたけど、遺留品からそんな手紙は見付からず、 結局犯人は分からずじまい。以来、あの教室に一人でいると何か悪いことが起こるらしいわ…。」 ……結末以外はなにやらどこかで聞いたことのあるような話である。こいつ実は全部知ってるんじゃないだろうな。 長門、あまりこっちを見るな。こういう状況でのお前の眼差しはナイフなんかよりよっぽど怖い。 朝比奈さんはもう完全にギブアップ、古泉は相変わらずニコニコしている。 俺と朝比奈さんの青ざめる様子に気付いたのか、ハルヒは満足げな顔で言った。 「あははは、うっそ。今のは完全なあたしの作り話。こうも良い反応をしてくれるとは思わなかったわ。 持つべきものはキョンとみくるちゃんよねえ。」 こいつ実は読心術もマスターしてるんじゃないだろうか。 「じゃあ、消すわよ。」 そういって最後の蝋燭を吹き消した。 …暗闇 朝比奈さんの「ふえぇぇ」という舌足らずな悲鳴が聞こえたかと思った次の瞬間、蛍光灯が瞬き始めた。 誰が点けたんだ。そう思って部室の入り口に目を向ける。俺にとって、ハルヒとは別の意味で生涯忘れないであろう顔がそこにあった。 ……朝倉涼子? 何なんだ?訳がわからない。なんで復活してるんだ?一人を除いて目を丸くして入り口を凝視している。 驚く朝比奈さんも実に愛らしい、写真に撮って起きたい気分だが、今はそれどころではない。 どうでもいいが少しは驚けよ、長門。 「あんた…カナダは?」 ハルヒが訳のわからない質問をしている。 「何のこと?あなた達こんな時間に学校で何してるの?」 それはこっちの台詞だ。何しに出てきた。学校の警備員のバイトでも始めたのか、働き者だな。 瞬間、長門が何か呟いた。よく聞こえなかったが、例の「呪文」って奴だ。同時に明かりが消え、再び点いたときには入り口には誰もいなくなっていた。 なんだ?何をしたんだ、長門? 「何…今の?」 ハルヒが驚き半分、興味半分の器用な顔で声をあげる。あれはいったい何なのか、それは俺が知りたい。 朝比奈さんはもはや放心状態、古泉は胡散臭い笑顔に戻っている。 長門は勿論表情を変えていないが、一言 「……幻覚」 とだけ言った。いくらハルヒをごまかすためとはいえ、それはないだろ長門。 「幻覚…?みんなも見たでしょ?」 「…見ていない」 長門が無茶な否定を始めたが、他にどうしようもないので俺も続いて首を横に振った。 「ん~、おっかしいなあ。確かにそこに朝倉涼子が……まあいいわ。考えてもわかんないし。今日はそれなりに面白かったし。 終わりにしましょ。」 こんなフェルマーの最終定理の証明よりも意味のわからない説明で納得してくれるんですか、ハルヒさん。 お前が、大雑把な奴で良かったよ。 帰りの道中、俺は長門へ説明を求めた。さすがの俺もあれでは納得がいかない。古泉も興味があるようで、 話に勝手にまざってきた。あっちでハルヒの話し相手でもしてろよ。 「残念ながら、涼宮さんは朝比奈さんと話すのに忙しいようですのでね。」 見ると、ハルヒが朝比奈さんへまだ怪談を語っている。もう、いつでも失神する準備万端な朝比奈さんは 半分ハルヒに引っ張られて歩いている。すみません…朝比奈さん。 「…ノイズ」 長門がいきなり蚊の鳴くような声で説明を始めた。 例によってさっぱり意味がわからなかったが、古泉によるとこういうことらしい。 長門は朝倉涼子の情報連結を解除したが、それは朝倉涼子のデフォルトの状態を消去したのであって、 朝倉涼子が長門のあずかり知らない所で得た経験値までは対象となっていなかったらしい。 つまり、1年5組委員長としての朝倉涼子の情報はいまだ学校を彷徨っていて、ハルヒの願いに呼応して現れ、 今さっき長門が、消去したというわけだ。 なあ、それって所謂幽霊じゃないか? 「…そう、通俗的な用語を使用するならば、そういうことになる。」 …笑えない、何故か笑っている古泉の顔をひっぱたきたい気分だぜ。 「遠慮しておきましょう。僕にそういう趣味はありませんから。あ、そうそう、もう電車もないでしょうから帰りのタクシー代は 僕が出しますよ。面白いものを見せてもらったお礼です。」 なにやら、どこかで見たことのあるタクシーを呼び止めて古泉は言った。 「さすが副団長ね。キョンにも見習って欲しいわ。」 真夜中なのにこいつの元気は底なしだな…。朝比奈さんはハルヒを自分の家に招待しようと必至に懇願している。 一人で寝るのが怖いんだろう。俺を誘ってくれれば、インチキパワーを発揮した長門の如きすばやい動きで挙手をして、 二つ返事で引き受けるというのに。 さて、俺も今日はもう眠い。少しばかり癪だが、古泉の好意に甘えてとっとと家に帰って寝よう…電気を点けて。 END
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/746.html
少女達の放課後 A Jewel Snow (ハルヒVer) ダーク・サイド 繋ぎとめる想い 涼宮ハルヒの演技 涼宮ハルヒと生徒会 HOME…SWEET HOME 神様とサンタクロース Ibelieve... ゆずれない 『大ッキライ』の真意 あたしのものよっ!(微鬱・BadEnd注意) ハルヒが消失 キョウノムラ(微グロ・BadEnd注意) シスターパニック! 酔いどれクリスマス 【涼宮ハルヒの選択】 内なるハルヒの応援 赤い絲 束の間の休息(×ローゼンメイデン) ブレイクスルー倦怠期 涼宮ハルヒの相談 お悩みハルヒ 絡まった糸、繋がっている想い 恋は盲目(捉え方によっては微鬱End注意) 涼宮ハルヒの回想 小春日和 春の宴、幸せな日々 春の息吹 おうちへかえろう あなたのメイドさん Day of February ハルヒと長門の呼称 Drunk Angel ふたり バランス感覚 Swing,Swing,Sing a Song! クラス会 従順なハルヒ~君と僕の間~ B級ドラマ~涼宮ハルヒの別れ~ ハルヒがニート略してハルヒニート 涼宮ハルヒの本心 涼宮ハルヒのDEATH NOTE 思い込みと勘違い 束の間の休息・二日目 束の間の休息・三日目 涼宮ハルヒの追想 涼宮ハルヒの自覚 永遠を誓うまで 涼宮ハルヒの夢現 Love Memory 友達以上。恋人未満 恋人以上……? 涼宮ハルヒの補習 涼宮ハルヒの感染 雨がすべてを 涼宮ハルヒの天気予報 キョンに扇子を貰った日 涼宮ハルヒの幽霊 隠喩と悪夢と……(注意:微グロ) Close Ties(クロース・タイズ) の少し後で セカンド・キス DEAR. 涼宮ハルヒの独白 寝苦しさ 涼宮ハルヒの忘却 涼宮ハルヒの決心 ティアマト(ハルヒ×銀河英雄伝説) 式日アフターグロウ 微睡の試練 涼宮ハルヒの大騒動シリーズ young 神の末路(微グロ注意) 涼宮ハルヒの奇妙な憂鬱 夕日の落ちる場所 涼宮ハルヒの抹消 トラウマ演劇 涼宮ハルヒは夜しか泳げない ハルヒ「釈迦はイイ人だったから!」 (グロ ナンセンス) ハルヒとボカロオリジナル曲の歌詞をあわせてみた 涼宮ハルヒの共学目次 word of thanks 赤色エピローグ 夏の日より 朝比奈さんの妊娠 疑惑のファーストキス 機関の推測(微エロ注意) 涼宮ハルヒの切望―side H― 憂鬱な金曜日 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/517.html
無限の命を刻んだ永遠の時間 宇宙に無数に存在する惑星 その中の一つに過ぎないこの星に生まれた命 何億と生きる人間の中の一つの私 なんのためにこの星に生まれたのか なんのためにこうして生きているのか 誰もその答えを知らない ふと怖くなり顔を上げる 放課後の部室 誰もいない静寂 無数に存在する命 しかし私を知っているのはそのわずか 怖くなる 孤独? 恐怖? 心が痛い とても苦しい 私は、サミシイ まるで自分が世界に取り残されたような感覚 誰一人私を必要としていない ―――――ヤダ! なんで誰もいないの? キョン?有希?みくるちゃん?古泉くん? 部室のドアに手をかける しかしそれは開かない ドアは開かない なんで? ここから出して! ここから出たいの! 助けて! 私はここよ? 誰か! キョン! ―――――カタン ふと心がざわめく 私一人だったはずの部屋に気配が生まれた 誰? キョン? 私はその気配の方へ振り返―――― ―――――られない 体が動かない ヤダ 何これ何コレなにコレナニコレ 背後から近づく気配 汗が溢れる ドアノブを握ったまま手は動かない 振り返ろうにも首は動かない 少しずつ気配は大きくなる 背後の影は徐々に近づく 声は――――出せない 目を――――つむれない! そして その影はすぐ後ろに立つ 身体の背後から手が伸びた 伸びた手は私の手に触れる ――――怖がらないで あなた誰? 心で呟く ――――私はあなた あなたは私? 再び呟く ――――あなたの中のもう一人のあなた ――――本当は弱くもろいあなたの心 ――――気づいていたんでしょ? 囁く声 私は答えない ――――本当は、誰かに甘えたい 私の願い? 誰かに甘えたい 一人はもうイヤ でも、そんなのそんなの無理 私はわがまま 私は自分勝手 私はきっと嫌われている ――――あなたが拒絶しているだけ ―私が? ―――そう ―私は、そんなこと ―――ない、と言い切れる? ―私、私 ―――本当はわかっていた ―本当はずっと前から ――あいつに 「―――ハルヒ」 急に目が覚める 夢? 目を見開く 目の前にあいつがいた 心配そうに私を見ていた 「ハルヒ、大丈夫か?」 え? ふと目が冷たくなる 私は泣いていた 「ハルヒ?」 何よ? 「大丈夫か?」 決まってんじゃない 「本当か?」 くどいわね 「そうか」 部室を見渡す そこにはキョンしかいなかった そして、外はすでに暗かった 待っててくれたの? 「ああ」 なんで? 「俺の勝手だろ?」 私は言葉を切る 静寂が二人を包む 部室はまるで時が止まったようだった そして、私は再び口を開く ―――がとう 「え?」 困惑するあいつ 「なんだって?」 二度は言わない 私は無言で席を立つ 荷物を持ち 部室のドアノブに手をかける 「ハルヒ」 背後から声がかかる 私は固まる そして無言で続きを待った 「明日からもまた、がんばろうな」 震える肩をおさめる あいつに振り返る そして今度ははっきりと口にする ありがとう 涼宮ハルヒの短編‐完‐
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5155.html
ここはどこ くらい あたりでぼんやりひかるじめん このくうかんをおおうてつぼう まるでおりのなか そとはやみ だして このせかいからわたしをだして! オレンジ色の冬空の下を俺たち団員は下校している。 今日も不思議が見つからないことを悩みとする団長はとなりであひる口をしていた。 ハルヒ「あーもうつまんない!たしかに平和もいいわよ?でもね刺激がなさすぎなのよ!」 おまえが平和を肯定するなんて日本の首相が戦争を肯定するようなものだぜ。よろしい、ならば戦争だ。 ハルヒ「なによそれ。よしキョン!なにか面白いことを10秒でしなさい、はい!」 お前にはこれで十分だ。 キョン「布団がふっとんだ」 ハルヒ「あんたねぇ・・」 みくる「さすがにそれは・・」 長門「ユニーク」 古泉「まあまあ彼だって必死なんですよ」 ハルヒは俺を徹底的に罵倒し、他団員3名は蔑みの目で俺を見ている。 とりあえずハルヒを止めるために俺はハルヒの頭をなでた。 ハルヒ「なによ!」 キョン「せっかくのかわいい顔が台なしだぞ」 途端ハルヒは顔を真っ赤にし ハルヒ「なっ何言ってんのよ!もう今のでストレス爆発よ!」 バカキョン、と叫び走り去った。 古泉「あれは照れてるだけです。閉鎖空間は発生してません」 いらん説明をどうも。 女心で遊ばないでください、と朝比奈さんに涙目で説教されてしまった。反省しよう。 俺は帰宅し、夕食を食べ宿題を済ませ就寝する。うーんなんて学生らしい生活だ。 またここにきた あいかわらずくらい おりのなかのじめんはあかるい だしてよ もうこんなところにいたくない あたしは鉄棒に蹴りを入れつづけた。 むなしく響く金属音。 「静まりなさい」 その女の声の方向、真上を見た。暗闇しかない。 「バタシはあなたの望みを叶える神です」 この声は何を言ってるのだろう。 「今は信じられないだろうね。まずこの空間のことですが、ここは箱庭です」 名称なんてどうでもいい。 「ここは私とキャナタが話すための空間。私を信用してもらうため、あなたの願いを一つ叶えましょう」 占い師みたいなことを言われた。 「さあ」 角砂糖より甘い誘い。様子見をしよう。だがどうせ叶うなら本当の願いがいい。 キョンという男の子と恋人になって一緒に生きたい、そう伝えた。 神「わかりました。では目をつぶり強く願ってください」 あたしはそれに従う。すると意識がなくなる感覚に襲われた。 俺は凍えるような空気に堪えながら登校した。 俺が席に着くと同時に背中に衝撃が走った。 ハルヒ「おはよーキョン!」 キョン「おまえは普通に挨拶できんのか」 ハルヒ「あっごめん」 ハルヒが後ろから俺の背中をバンッと叩いたのだ。にしてもハルヒが素直に謝るとは珍しい。てなに頬ずりしてんだ、離れろ。 昼休みに俺の疑問はさらに積もった。 ハルヒ「キョン、お弁当一緒に食べよ!」 キョン「俺は食堂へ行く」 ハルヒ「なぁに冗談言ってんのよ!あたしがキョンの分も作る、て約束したじゃない!」 When you said? 俺が答えに詰まっていると、谷口が横からあきれた顔をしながら 谷口「痴話喧嘩かよ。おまえはいいよな。彼女持ちになりやがって」 ハルヒ「アホの谷口は黙りなさい!ほらキョンの好物よ」 谷口の発言の意味がわからない。俺はハルヒと机を向かう合わせにし、弁当をもらった。ハルヒが「あ~ん」してきたので全力で断った。 放課後ハルヒは掃除当番で遅れるそうだ。俺はこの疑問を解消するべく一人で部室に向かった。 部室の扉を開けると、朝比奈さんとは違うマスコットがいつものように本を読んでいた。 キョン「よっ長門。他の人はまだか」 沈黙、それすなわち肯定。学習済みである。本題に入ることにした。 キョン「ハルヒや周りの様子が変だ。何か知らないか?」 長門「周りの人間の記憶を改変したのは私」 キョン「なんだと?」 長門「涼宮ハルヒの記憶に何者かが干渉したから」 長門は淡々と、だが焦りの色をわずかにこめて話した。 深夜にハルヒの記憶が改変され、俺と恋人であるとハルヒが思っていること。記憶の修復は不可能で、仕方なく団員以外の周りの記憶を改変し混乱を避けたこと。 長門「犯人は不明。確実に危険要素になる」 朝比奈「長門さん!未来と連絡がつきません!」 古泉「機関の方はむしろ彼女の精神が安定して良かった、という意見が多いです。ただその犯人については調査中です」 いつのまにかニヤケスマイルとメイドさんがいた。 長門「現在情報統合思念体の主流派は慌てている。世界の創造主の記憶改変などもってのほか」 キョン「ハルヒの記憶ではいつから付き合ってるんだ?」 長門「昨日」 なんだって? キョン「ハルヒに記憶の矛盾を伝えれば、記憶が戻るんじゃないか?」 古泉「だめです。彼女の幸せな『真実』は不幸な『現実』を受け入れないでしょう」 長門「あなたはしばらく彼女と付き合ってるフリをして」 ハルヒ「やっほーみんな!」 危ないな、話を聞かれるところだった。 ハルヒは手に派手なゴスロリ服を持っていた。ハルヒが朝比奈さんにヘビのように近づく+朝比奈さんが助けを求める=ハルヒの前で朝比奈が俺に正面からしがみつく。方程式のような動きに感動した! 俺はハルヒを止め、古泉と将棋をした。長門は本を読んで・・・ページが進んでないな。朝比奈さんは椅子に腰掛け落ち込んでいた。そしてハルヒは ハルヒ「そこに歩置けばいいんじゃない?」 キョン「いやここは桂馬で王手角取りだ」 俺の頭に首を乗せて将棋を見ていた。むむさっきから首に当たるフクラミはまさか。 ハルヒ「もうキョンの変態」 何赤くなってんだよ。俺まで興奮するだろ。 長門が本を閉じる音が聞こえた。活動終了。 下校中ハルヒは俺の腕を組んで歩いていた。 ハルヒ「ねぇ今日キョンの家行っていい?まだあんた・・あなたの家族に挨拶してないのよ」 あいにく今日は急ぎの用事がある。 キョン「今日は無理だ。近いうちにな」 ハルヒ「じゃあ明後日ね」 俺は交差点でハルヒ達と別れると、今後のことを考えた。このまま付き合っても悪くはないが、捏造された恋だ。俺は許さない。 「キョン」 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたので振り返った。そこには懐かしい人がいた。 キョン「久しぶりだな佐々木」 佐々木「ボクと会わなくなって1年、キョンは男らしくなったな。今日は大変だったろう」 キョン「俺にも大変な時はあるさ」 佐々木よ、あいかわらずその笑い方はやめようぜ。クックッなんて鳥じゃあるまいし。 キョン「あいにく俺はすぐ帰る必要があるから今日は失礼する」 また会った時茶でも飲もう、そう言い俺は家に走った。佐々木が寂しそうに見えた気がするが、夕日のせいだろう。 ここはいつものばしょ じめんはぼーっとひかる おりのようなばしょ きのうもきた 「あなたの願いを叶えましたよ」 願い? 「あなたは初めてここに来たとき、キョンという男と恋人になりたい、と願いました。それを叶えました。」 よく覚えていないが、彼女は勇気をくれたのだろう。ありがとう、と返事をした。 「この箱庭はいいだろう。あなた以外誰もいないんですよ」 寂しい、素直な気持ちを伝えた。 「心配しないで、ここは仮の宿。あなたがキョンと永遠に幸せになる場所、『楽園』が本当のゴール」 そんな場所が本当にあるのだろうか。だがあたしは見えぬ彼女を信用することにした。 「そしてその楽園へ導いてくれるのが『はこぶね』」 はこぶね? 「『箱舟』にあなたの願いを託せば、必ず貴女は幸せになれます」 そう言われた瞬間、あたしは意識を失った。 朝俺は携帯のバイブで目を覚ました。時計を見ると、まだ6時30分である。 古泉「長門さんから伝言を預かりました」 キョン「なんだ」 古泉「『彼女を否定する言動は避けて。嫌な予感がする。』とのことです」 キョン「また何かあったのか?」 古泉「再び涼宮さんの記憶が改変されたようです」 どのように? 古泉「長門さんにもわからないそうです。ただ記憶改変が行われた、と察知するのがやっとらしいです」 キョン「せめて現在の行動ぐらいはわからないか?」 古泉「たった今彼女が登校した、と外で監視している仲間から報告がありました。」 キョン「こんな朝早くにか?」 古泉「おそらくあなたを迎えるためだと思います」 なるほどね、恋人か。 古泉「ただ少し妙な点が・・・いえ何でもないです、失礼しました」 電話が切れた。 俺が珍しくゆっくりと朝飯を食べていると、インターンホンが鳴った。 妹が確認してきたところ、やはりハルヒだった。あと一分で来ないと死刑、という伝言を受けた。 今日は雨か、冷たいな。 ハルヒ「あたしが家を出たころにはすでに降ってたわ」 俺はハルヒに腕を組まれながら登校中だ。ん? キョン「ハルヒ。ほっぺに赤いのが付いてるぞ」 ハルヒ「朝のイチゴジャムね、これだから朝のパンは嫌なのよ」 ハルヒは笑いながらハンカチで汚れをぬぐった。ハンカチは少し赤く汚れた。 教室に着くとハルヒは少し顔を曇らせた。 ハルヒ「あのね、実はあたしの父さんと母さんがキョンと付き合うのに反対してるの」 なんと重たい話だろう。俺はできる限り安心させることにした。 キョン「じゃあ俺が直接親を説得しよう。口ゲンカなら負けないぜ」 ハルヒ「口ゲンカはダメ。でもありがとう」 ハルヒは今まで見せたことのない、優しい笑みを浮かべていた。ておい教室で抱きつかないでくれ。 昼休み、相変わらず止まない雨にうんざりしながらハルヒの弁当を食べた。携帯電話のバイブが鳴り始めた、ハルヒに失礼だから無視しよう。 ハルヒ「あっキョン。ちょっと顔を動かさないで」 ハルヒはハンカチを持つ手を俺の顔に近づけ、俺の頬をぬぐった。 なんだソースが付いてたのか、と納得しハルヒにたたまれるハンカチを見た。やや黒い。 弁当を食べ終わるころにはバイブは止まっていた。 授業中に俺は着信履歴を確認すると、古泉からだった。 五時限目終了後ハルヒはどこかに行った。途端電話が鳴った。 キョン「どうした古」 古泉「なぜはやく出ないんだ!こっちは大変なことになってたんだぞ!!」 古泉の怒声を聞くとは思わなかった。 キョン「落ち着け古泉、何があったのか話せ」 古泉「すいません」 古泉は息を整えて言った。 古泉「落ち着いて聞いてください、実は」 あたしは今みくるちゃんと文芸部室にいる。メールでさっき呼び出したのだ。もちろん昨日のあれのことで。 ハルヒ「みくるちゃん、あたしがキョンと付き合ってるのは知ってるわよね?」 みくる「はっはい!」 怯えている。当然か。 ハルヒ「にもかかわらず昨日キョンに抱きついたの!?」 あたしはみくるちゃんを壁に追い詰めた。 ハルヒ「ふざけないで!いい?今度から誘惑しないでね!」 みくる「ぐっはっはい・・」 ハルヒ「わかればよろしい、もう教室に帰っていいわよ」 みくるちゃんは腰が抜けたのかその場に尻餅をついた。あたしは満足して教室に戻った。 キョン「なんだと!?」 古泉「ですから落ち着いてください」 キョン「落ち着く方が無理だろ!」 ハルヒの家族が皆殺しにされていた・・だと。 古泉「異変に気づいたきっかけは干しっぱなしの洗濯物です。今朝からずっと雨なのに、家の中に取り入れる様子がなかったのです」 おかしいということで機関の一人が近所の人のフリをし、訪問した。が返事はなかったらしい。 古泉「そこで監視員全員で家に強行突破しました。そして」 キョン「死んだ家族を発見したのか」 古泉「ただ殺され方が尋常じゃありません。家族は寝ている間に包丁で襲われたんでしょう。首はえぐられ片目は潰されていたそうです。」 とても僕たちが見れる光景じゃないそうです、と話した。 キョン「犯人はまさか」 古泉「涼宮さんでしょう、深夜から家の外で監視されてた状況ですから」 キョン「そういや朝ハルヒの顔に赤い汚れのが付いてたんだ。ハンカチでぬぐってしばらくしたら黒くなってた」 古泉「それは血ですね」 俺は頭が真っ白になった。 6時限開始時にハルヒは戻ってきた。俺はハルヒがこわい。 放課後俺とハルヒは部室に向かった。ハルヒは笑って話しかけてくる。 部室のドアを開けると、そこには長門が立っていた。何かを見ている? その方向を見るとそこには キョン「朝比奈さん!!」 ハルヒ「えっあっみくるちゃん!!」 そこには左胸からナイフが生え、目を見開いた朝比奈さんが倒れていた。 ハルヒがその場で倒れた、気絶したのか。俺はハルヒを抱き抱えた。俺は確信した、こんな奴が殺人するわけないと。 ハルヒに気づかれぬよう機関の人が来て隠蔽をした。残された俺たち団員4人は、さらにひどくなった雨の中を下校した。ハルヒは俺に泣きついている。 ハルヒ「ねえキョン、明日あなたの家に行くからね」 そうかい。 ふと俺は腕を引っ張られた。長門だ。 長門「これ読んで」 長門がブックカバーをかけられた本を差し出した、ハルヒの目の前で。 ハルヒは「病気になった」家族を看病する、と言い早々に俺たちと別れた。 古泉「あなたは朝比奈さんが亡くなられた件についてどう思いますか」 おまえ不謹慎という言葉を知っているか? 古泉「偽善者になるところではないです。現状分析が必要です」 長門「同意する。朝比奈みくるはおよそ6時限の授業直前に殺された。彼女が怪しい」 キョン「待て。発見時のハルヒのあの反応はとても殺した人間とは思えない」 俺はハルヒを信じた。家族の死も別の犯人がいるはずだ。 古泉「その件なんですが、長門さん宅に行きませんか?機関の仲間が集まってます」 長門の家には機関の人がたくさんいた。 森「久しぶりね」 古泉「今はあまり余裕がありません。やるべきことを済ませましょう。新川さん、モニターを」 森「挨拶ぐらいいいじゃない」 森さんは微笑んだ、目は笑っていないが。 キョン「モニターで何を見るんだ」 長門「涼宮ハルヒの家での行動。今彼女は買い物を済ませて帰宅した」 古泉「家中に監視カメラがあり、音声も拾えます」 亡くなられた家族は? 古泉「そのままにしてあります。」 森「状況が変われば彼女は混乱するでしょう」 新川「静かに。彼女が料理を作り始めた」 どれどれ。あれはおかゆ?だが誰が食べるんだろう。ハルヒは鼻歌を歌いながらおかゆを作り終えた。 ハルヒはそのおかゆを二枚の皿に移し、それらを持って階段を上がる。 古泉「おかしいですね、上には家族の方々がいらっしゃる寝室しかないはずですが」 ハルヒは寝室に入った。寝室は辺りに血が飛び、遺体がベッドで横になっていた。俺は気分が悪くなった。 次の光景を見て、俺はハルヒへの信用を放棄せざるをえなくなった。 ハルヒ「はいお父さん。おかゆ作ってきたよ。はいあーん、もうこぼしちゃだめよ」 ハルヒは「それ」のそばに座り、スプーンでおかゆを「それ」の口に流した。 ハルヒ「おいしい?良かった~。それでねお父さん。キョンのことだけど・・・えっいいの?ありがとう!」 ハルヒは一人で喜び、「それ」の首に手をまわしている。顔や服が赤黒く汚れていく。「それ」の首から赤白い液体、おかゆが漏れてきた。 古泉「彼女の精神が危ないです。幻覚を見ています」 新川「記憶改変の影響ですか?」 長門「こんなバグはありえない」 森さんは泣いていた。俺は頭が真っ白である。 ハルヒは別の「それ」に食事を与え始めた。 ハルヒは食器を片付けると、風呂に入った。俺は何も考えられず、ただモニターを見た。 ハルヒは歌を言っているようだ。 明日はキョンの家へご挨拶~みくるちゃんには~忠告しておいた~ 『忠告』だと!? 俺は床を殴りつけた。さらに歌は続く。 そういや有希が~本を渡してた~もしかして~私のキョンにちょっかいを~少し念おしておこ~ 機関と俺は一斉に長門を見た。 つぎはながとがころされる、全員がそう思ったはずだ。 長門「大丈夫、私は死なない」 だいじょうぶ、と長門はまた言った。俺たちを安心させるように。 今日はもう遅い、という新川さんの忠告に従い俺と古泉は雨の中帰ることにした。結果は後に聞くことになった。 キョン「ハルヒがああなったの俺のせいなのかな」 沈黙。つまり肯定か。ようやく古泉は口を開いた。 古泉「涼宮さんが家族を殺害した動機に心当たりはありませんか?」 俺は昼間ハルヒが話したことを話した。 古泉「そうですか。納得ですが、恋人のために人を殺すことを僕は理解できません」 そして今の僕たちにできることは何もないのです、と古泉は苦々しく言った。 俺は帰宅した。夕飯を食べる気もしない俺は風呂に入る。頬を流れる液体はお湯か涙か。 部屋に戻り、俺は長門から借りた本をバッグから探した。本を手にとると1枚の折られたB5の紙が落ちた。本に挟まってたのだろう。 俺は本を机の隅に置き、ベッドに仰向けになりそれを読みはじめる。 これを読むころには私はいないだろう。今の私は主流派を何者かに潰されている。 今情報統合思念体は急進派でのみ構成されていることがわかっている。彼らが今何をしているかは不明。 私には一つの仮説がある。それは急進派が涼宮ハルヒを操作していること。 彼らは記憶を改変し彼女を望むままにあやつる気かも。だがこれはどの派閥でも危険という意見で一致したはず。何かの圧力か? 私は彼女に殺されるだろう。実は一度目の改変後彼女の力はなぜかなくなっている。だから彼女をあやつる者が補助し私を殺しにくるはず。 私個人の能力を駆使した結果が、この本のメッセージ。 できればあなたは生きて欲しい。 俺は長門の家に電話したが、誰も出ない。 今度は古泉に電話した。よし出た。 キョン「今すぐ長門の家へ来い!説明は後だ!!」 俺は電話を切り着替え、雨の中陸上に出るぐらいの勢いで傘をさして走った。 20分後、マンション前で古泉と落ち合った。 古泉「長門さんの家にいる仲間と連絡がとれません」 俺たちはマンションの管理人に事情を話し、急いで管理人と長門の家に行く。途中赤い汚れをあちこちで見た。 玄関の扉を開けた。 機関の人たちがあちこちで倒れていた。出血してないが、床にたくさん血の足跡があった。 止める古泉を無視し、俺は足跡をたどりベランダへ出た。 俺は瞬時に力が抜けた。追いついた古泉が手で俺の目を隠そうとしたが、それよりも前に「それ」を見てしまった。 血塗レデ横タエル無口ナ少女ヲ 俺はその場で泣きくずれた。俺は長門も守れなかった。 後は機関が処理をした。長門は首をずたずたにされ、左胸に深々と包丁が刺さってたらしい。 古泉「長門さんが突然倒れると、次々に仲間が倒れたそうです」 俺を含む機関は今後について話した。 まず俺がここでハルヒに電話し様子を見ることになった。 俺はハルヒに電話をかけた。携帯が震えている、いや俺の手が震えているのだ。 10秒待つと、元気な声が応対した。 ハルヒ「珍しいわね、どうしたの?」 キョン「ああ今何してるか気になってな」 ハルヒ「なにキョンまた宿題教えて、て言う気じゃないでしょうね?まあいいわ、さっきね」 長門の家に行き、私たちの恋愛の邪魔をしないよう念を押した。そう解釈できることを言っていた。 俺は携帯電話を壊そうとしたが、古泉が俺をなだめてくれたおかげで壊さずに済んだ。 明日の弁当はお母さんに教えてもらった愛妻弁当よ、と言い放って切られた。 新川「古泉、今連絡があった。TFEIの大半が消失したのを確認し終わった」 古泉「なんですって?」 キョン「その残ったTFEIは急進派じゃないですか?」 新川「なぜ知ってるんだね?」 俺は長門から借りた本に挟まっていた紙の内容を説明した。 古泉「なるほど。この事件の犯人は急進派ですか」 森「いえ話を聞く限り、急進派も何かの圧力を受けやむを得ず行動した、という可能性があります」 新川「とにかく残ったTFEIを監視していく必要がある。森、今すぐ手配を」 森「わかりました」 新川「君たちはもう休みなさい。あまりにもつらい体験をし続けたろう」 再び俺と古泉は帰路につく。互いに話す気力がない。 家に着くと、玄関で母さんが待っていた。遅くに出かけた俺に説教しようとしたのだろう。だが俺の目を見るなり黙ってしまった。俺は何も言わず部屋に戻り睡眠をとった。止まらぬ涙を枕に染み込ませて。 またはこにわにきた わたしのこいをたすけるかみよ はやくわたしときょんをはこぶねにのせて 「調子はどうだい?」 みくるちゃんや有希には忠告した。親の説得は成功した。もう私とキョンの恋愛を邪魔する者はいないはず。 「偽りの記憶はいいものだろう」 偽り? 「何でもない。私は箱舟へ乗せる準備をしている。あなたたちを乗せる時が来たら私が迎えにいく」 私はまた意識を失った。 その直前にかすかに聞こえた声。 もうおまえらはようずみだから 俺の寝起きは最悪だった。枕はぐしょぐしょに濡れ、目は痛む。 顔を洗おうと部屋のドアを開けると、枕元の携帯電話が鳴った。 古泉「急進派が突然消えました」 キョン「え?」 古泉「正確には情報統合思念体と全てのTFEIが姿を消しました。正直何が起きているのかお手上げです」 キョン「ハルヒは?」 沈黙が訪れた。 古泉「残念ながら記憶は戻らず、幻覚もそのままです」 キョン「そうか」 古泉「ところであなたは『箱舟』を知ってますか?」 ノアの方舟か? 古泉「そうです。先程から彼女は『キョンと箱舟に』と何度も口にしているそうです」 キョン「どういうことだ?」 少しのためらい。 古泉「わかりません。『箱舟』という名の思い出の品で何かするのだと思います」 なにをするんだよ。 古泉「いいですか?彼女を嫌ってはいけません」 絶対にですよ、と古泉は言い電話を切った。残念ながら俺はハルヒのことを考えるだけで、手が震えた。 登校中、空には俺を励ますように輝かしい太陽がいた。あいにくとなりで「恐怖」が俺の腕を組んで笑っているため効力は薄い。 ハルヒ「どーしたの?なんか顔色悪いけど」 おまえのせいだよ キョン「妹が朝からだだこねて大変だったんだよ」 ハルヒ「ふーん、まあいいわ。今日は念願のキョンの家に行けるのね!」 冗談じゃない!おまえは俺の家族まで・・・クッ! キョン「すまん。家族と法事に出かけることになっていたんだ」 なにをそんな悲痛な顔をしてんだ。俺が悪いみたいじゃないか。 ハルヒ「だったら私も行くわ!」 キョン「だめだ」 やだやだ、と俺の袖にこの女は涙目でしがみついた。 今のこいつは力を失ってるんだよな。なら何を言っても大丈夫だろう。 キョン「わがまま言うなら別れよう」 ハルヒ「我慢すればいいんでしょ!そのかわり今度あたしと一緒にどこへでも行こうねキョン!」 はいはい、と返事をしておいた。どこへ行こうというのかね。 教室に着くまでの間こいつは必死に俺に話しかけてきた。ご機嫌とりにしか見えない。 自分の席に着くと、谷口が俺の方に寄ってきた。 谷口「よおキョン。おまえが本気だったとは思わなかったぜ」 何の話だ? 谷口「朝から涼宮と登校なんておまえらデキてんじゃねぇか?」 ちょっと待て ハルヒ「私とキョンはすでに恋人よ!」 谷口「ほらキョン、涼宮はすっかりその気で」 話を中断し、谷口に問う。 キョン「今の俺とハルヒの関係を本当はどう見える?」 谷口「何を今さら」 いつもの女王と奴隷にしか見えないぜ、そう谷口は返答した。 谷口「そんなに涼宮を気にす」 俺は9組へ向かい、ドアを乱暴に開けた。教室を見ると古泉は席に着いていた、笑顔の仮面をつけて。 俺が何かいう前に古泉は言った。 古泉「今ホームルーム中です。あとで理由を聞きましょう」 やっちまった。クラス全員で俺を白い目で見るな。 昼休み。弁当を無視し教室を出ると古泉が待っていた。 今俺たちは食堂の柱に並んで立っている。俺は古泉に周りの反応を話した。 古泉「つまり周囲の人の記憶が改変前の世界に戻っている、ということですね」 深刻な顔をする古泉って少し怖いな。 古泉「涼宮さんは知ってのとおり、あなたを溺愛してます」 これはまずいですよ、と古泉は顔を近づけて言った。離れろ。 古泉「これは失礼。ですがいいですか?神の力のない彼女は一般人です。もしあなたが」 自分の大切な思い出と周りの記憶が正反対に食い違ってたらどんな心境になりますか、と古泉はまじめな顔で言った。 キョン「生きてる気がしないだろうな、恋愛の思い出ならなおさら」 古泉「今はあなたが恋人として振る舞っているから、彼女はまだ付き合ってると思ってるでしょう。この状況は危ないです」 この腐った世界からあなたと逃げよう、と考えかねないからです。 ハルヒへの恐怖がさらに積もる。この世界のどこに逃げようというのだ。 古泉「急進派の件ですが、彼らと何度も接触していた人物がいたことがわかりました。特定はできませんでしたが」 長門やあいつの家族はあのあとどうしたんだ? 古泉「コトが収まるまで放置してます。警察へは通報しません。長門さんは欠席、ということになってます」 急に学校の外からピシャーンという漫画らしい音が聞こえてきた。おいおい暗いし大雨じゃねぇか。傘持ってないぞ。 昼休み終了の鐘が聞こえたので俺たちは教室に戻った。わめく女を無視し席に着いた。 放課後文芸部室が使えないのでしばらく団活動は解散する、とこいつは俺と古泉に宣言した。 傘を忘れた俺は下駄箱で呆けていた。すると後ろから ハルヒ「傘忘れたんなら入る?」 俺たちは薄暗い道路を手をつないで傘をさし歩いている。本当なら即刻おことわりなのだが、傘がないので仕方がない。 ハルヒ「ここのところ難しい顔するようになったわね」 誰のせいだよ キョン「まあな、ちょっと厄介事をかかえてね」 ハルヒ「ちゃんとあたしに相談しなさいよね。何のための彼女だと思ってるのよ」 ハルヒが俺に寄り添う。今のこいつは俺に対してなら優しくてかわいい少女なんだ。たしかにその優しさはうれしい。 俺はハルヒと正式に付き合おうか、と考え始めた。こいつを放っておけない。 ハルヒ「にしてもなんで今日文芸部室が使えなかったんだろ。有希も休みだし」 途端俺の目に凄惨な光景がよみがえった。 オマエノセイダロ ハルヒ「きゃっ!!」 俺はこの女を傘ごと突き飛ばした。女は道路に尻餅をついているがどうでもいい。 キョン「おまえが朝比奈さんや長門を殺したんだろ!!」 ハルヒ「なっなに言ってんのよ!殺したって何よ!!」 キョン「おまえが家族を殺したのも知ってんだよ!!!」 ハルヒ「冗談言わないで!!昨日も一昨日も家族と話してたわ!!そうよ、家族がみんな病気になっちゃったからあたしが看病したのよ!!なんで死ななきゃいけないのよ!!」 俺たちを黒い沈黙が渦巻く。互いに雨を大量に浴びている。 ハルヒは泣き始めた。 そのナミダはナニに対するナミダだ? 沈黙を破ったのはハルヒだ。 ハルヒ「ねぇ?なぜ変わってしまったの?あんなに愛し合ってたのに!!私たち中学からずっと一緒だったじゃない!!!」 はっ? コイツのキオクはドコまでイジラレテンダ? キョン「ありえねぇよ!!おまえは東中学だろ!!おれとは学校すらちげえよ!!おれたちは会ってもいないんだよおおおぉ!!!」 ハルヒは自分の口を両手で抑え、どこかに走りさってしまった。あとには傘と荷物、そして俺が残された。 途端に後悔の念で満たされた。悪いのは黒幕なのに、俺はハルヒを傷つけてしまった。 時間が経つのも忘れてその場に立ち尽くしていると、携帯電話が鳴った。古泉か。雨の中だが応答することにした。 古泉「今すぐ逃げろ!!!」 キョン「えっ?」 お ま た せ 携帯電話片手に後ろを振り向くと、そこには「ハルヒの形をした化け物」がワラっていた。 はるひ「今日約束したよ、ドコにでも一緒にイくって。ほら」 い こ う 「それ」は右手を振りかざし、俺の携帯電話をはたき落とした。 俺は右手に痛みを覚えた。右手の手の平いっぱいに広がる切り傷。 なんでそんな凍りついた笑顔をしているんだ キョン「なにをもってんだおまえ!?」 はるひ「『出かける』のに必要な道具よ。私たちを楽園に連れていく、ね?」 楽園ってナニ? 「それ」の右手を見ると、この暗い雨にもかかわらずよく見えるナイフ。 「それ」がさらに一閃し、俺の首をやや深く切りつけた。痛みを我慢し逃げようとする俺に「それ」は俺の左胸にナイフを突き刺す。俺は道路に横たわった。頭がぼーっとしてきた。 はるひ「そこへ行けば私たちは永遠に愛しあえるわ」 ソンナニシアワセナトコロナノカ はるひ「この『アーク』で先に行ってて。『アーク』っていうのは『箱舟』のことだって、さっき聞いたわ」 ホントウハナ、オレハアッタトキカラ はるひ「じゃあまたあとでね、アナタ。ウフフフフフフ」 ハルヒノコトスキダッタンダゼ 首元を切り裂く音、高らかに笑う声が聞こえた。 ここははこにわ なぜここにいるのわたし たしかにあーくでらくえんへいったはずなのに 暗闇から女のすすり泣く声が聞こえる 「おまえはボクのキョンを殺した」 ハルヒ「待ってよ!『ボクの』ってどういうことよ!?」 「おまえはさっきボクの言ったことに逆らい、キョンを殺した!」 ハルヒ「なんであんたにキョンを連れてってもらわなきゃ行けないの!?あたしじゃダメなの!?」 「あとはおまえが死ねば終わりだったに!!」 ツカエナイヤツ、たしかにそう聞こえた。違う、こいつは救いの神なんかじゃない。 「おまえにもう用はない。ボクの力も使い切る。おまえは一生『楽園』に」 堕 ち ろ 途端、光っていた地面が崩れ去った。私は浮遊感と闇に包まれる。 ここが「ラクエン」? コエを出しても何もミミに入らない。 私はキョンを「ラクエン」へ連れていったの? ゴ メ ン ネ 浮遊感と闇は続く、いつまでも。 ボクは昔からキョンのことが好きだった。彼とは違う学校になって以来全く会っていなかった。 だが最近になって好機が訪れた。情報統合思念体とかいう意識体の通信機代わりの人間が現れ、ボクにいろいろ話してくれた。 例えばボクに秘められた力。例えばボクより強大な力をもつ「ハルヒ」という人間。例えば彼女はキョンに思いを寄せていること。 急進派はハルヒの変化を観察したいので協力してほしい、と依頼した。ボクはこれを利用するため、必要となりそうな能力をボクに付与すること・主導権をボクが握ることを条件に引き受けた。 まずボクは急進派に指示し、寝ているハルヒの深層意識に「空間」を作った。この空間に彼女の意識を送ればそこで彼女は活動し、戻せば眠りにつく。 試しに送ってみた。彼女の慌てようがあまりにも滑稽なので、この空間を「箱庭」と呼ぼう。ボクは彼女の意識を箱庭から戻した。 その後彼女の力を奪った。急進派には暴走防止だと理由をつけて納得させた。 急進派の提案により、未来人の処理は急進派に任せた。 次の夜、ボクはやや口調を変えて箱庭で彼女と話した。途中自分の口調と混ぜて「バタシ」や「キャナタ」と失言したが、彼女は気にしなかった。適当なことを言って彼女を眠らせた。 最後に彼女の記憶を少しいじくった。急進派は困惑していたが気にしない。彼女は「昨日教室でクラスメイトの前で大声でキョンに告白して、OKをもらった」という偽りの記憶を持った。 彼女の身辺情報はすでに急進派から聞いていたので、長門さんが混乱を世界改変することは読めていた。 なぜ少しずつ記憶を改変するか?わかりやすい矛盾を生まず、偽りの記憶をより信じこませるためである。 ボクは当分学校を休み、自分の部屋で急進派のTFEIとモニターを見ることになった。モニターにはカメラがなく、誰にも気づかれずハルヒの行動をじっと覗けるようだ。急進派独自の技術だと言われた。 一度キョンに会いに行った。少しでもボクを記憶に残し、いつか頼ってくれることを望んだからだ。 だがここで失言した。 「今日は大変だったろう」 まるで今日の出来事を知っているような発言をしてしまった。だがキョンは気づかなかった。 家に戻ったボクは急進派に主流派を消すよう指示した。 その日の夜箱庭を覗いた。彼女は見事なまでに「偽りの」記憶を信じていた。例によって彼女を眠らせた。 再び記憶を改変し、「告白した日から、キョンと甘い時間を過ごしつづけた」という記憶を植え付けた。 なぜ彼女の恋を応援をするような改変を行うか?それはキョンに嫌わせるためさ。 身に覚えのない記憶を押し付けられたら、誰だって嫌になる。困り果てたキョンはボクを頼り、それをきっかけに交流を深める。恋人になれた時がゴールだ。 その日の朝、あわてるTFEIにたたき起こされた。外は雨か。 モニターを見てみると、家でハルヒが包丁片手に一人で何か叫んでいる。 急進派に聞いたが、記憶改変のバグではないようだ。 ハルヒは両親の寝室に入った。ボクは目を疑った。いきなり仰向けの父親の首に包丁を突き刺したのだ。引き抜くと、あたりに血が飛び散った。 全身に返り血を浴びたハルヒは、今度は母親の首にも突き刺し叫んだ。 ねぇ、なんでキョンと付き合っちゃいけないの? 確かにそう聞き取れた。どうやら長門さんが改変した世界では両親に交際を反対されてたんだろう。それで恨んだ彼女は・・・でも行動が妙だ。 ボクは吐き気がした。何度も首に包丁を突き刺し、ついには片目を潰した。部屋は地獄絵図となった。なおも聞こえる叫び声。 勝手にすればいいんでしょう、やがてそう言いながら彼女は風呂場で着替え手足や髪を洗い始めた。 急進派は彼女が幻覚を見ているのではないか、と指摘した。改変のバグではないのだろう、と反論する。それとは別だ、と返答された。 ハルヒはキョンへの過剰な愛情と自己防衛のために、自ら幻覚を作りだしているらしい。あの改変はまずかったか。 やがて彼女は頬にやや残っている血を気にせず、二人分の弁当とトーストを作り始めた。 彼女は自身で記憶改変し続けているようで、ボクが植え付けた覚えのない記憶をつぶやいている。とりあえず急進派に他の派閥を消すよう指示した。 彼女が登校する直前、彼女が台所から「なにか」をカバンに入れた。モニター視点からでは「なにか」を見れなかった。 5時限終了後、まさか彼女が未来人を殺すとは思わなかった。予定に支障はないが、慎重に動いた方がよさそうだ。 ボクが彼女の記憶を改変できるのは箱庭でのみ。完全には奪った力をあやつれないようだ。 彼女が家で風呂に入ってる時に歌っていた歌詞。おそらく長門さんを殺すつもりなのだろう。彼女が出かけたとき急進派に指示し、長門宅にいる人全員を気絶させた。 彼女が長門さんの家に着く前に、ボクは急進派に玄関や玄関ホールの鍵を空けるよう指示した。 傘もなしに雨の中を歩いたハルヒは長門宅に入ると、辺りに散らばる人間が見えていないかのように台所へ向かった。そして包丁を右手に握った。倒れている長門さんの所へ向かうと、叫びながら蹴り飛ばし始めた。 有希、お願いだからキョンを誘惑しないで!あたしが優しく言ってるうちに謝って!ベランダに逃げないで! ハルヒは長門さんの首を左手でつかみ、ベランダに連れていき壁に抑えつけた。 ねえ有希、あたしはただ謝って欲しいだけなの! ハルヒは右手の包丁で長門さんの首を深々と刺した。ボクは思わず目を背けた。何度も引き抜いては刺し、その間も叫び声は続く。 そんなに怯えないで!あたしは脅迫しにきたわけじゃないの!そうよそう言ってくれればいいのよ、ありがとう有希! ハルヒは最後に笑顔で彼女の左胸に包丁を突き刺した。ハルヒはすでに血まみれだった。 ハルヒは床に血の足跡を残しマンションを出て、雨の中を帰った。偶然にも雨は彼女から血を洗い流した。 イレギュラーはたくさん起きたが、計画はむしろいい方向に向かっている。キョンはハルヒを恐れ、ボクを頼るかもしれない。 家に帰った彼女は服を着替え始めた。途中キョンから電話がきたようだ。よく平然とそんなことを言えるな。 パジャマに着替えた彼女は就寝した。 ボクは彼女の意識を箱庭へ送り語りかけた。皮肉をこめてボクは彼女にこう言った。 「偽りの記憶はいいものだろう」 彼女は見えないボクを信仰している。これぐらいじゃ彼女はあやつられていることに気づかない。 「私たちは彼女の観察を終了します」 ボクのとなりにいるTFEIが突然ふざけたことを言った。 彼女の変化で貴重な資料を十分手に入れたため世界を元に戻す、そう言った。 ボクはハルヒに適当に応対しつつ急進派を説得した。だが断られた。そしてコイツラはボクから力を奪おうとした。 ボクはハルヒを眠らせ、コイツラに言ってやった。 もうおまえらはようずみだからきえろ するとTFEIがみるみる消えていった、謎の呪文を唱えながら。本当に願っただけで消えた。 次にボクは一般人の記憶を改変前の世界に戻した。キョンとハルヒが付き合ってたらボクの計画の意味がない。 改変後突然自分の力が弱まる感覚に襲われた。まさかあの呪文は・・・くそ。もう一度改変を試みたが力が足りないのだろう、失敗した。どうやらボクが力を使うたびに力が減っていくように仕組まれたようだ。 キョンと恋人になりたいなら最初から彼の記憶をいじればいいのだが、仕組まれた愛なんて嫌だからしない。 誰にもボクのキョンは渡さない。 朝は土砂降りの雨、昼も変わらず。ボクは相合い傘で下校しているハルヒとキョンのあとをつけている、ポケットにナイフを忍ばせて。彼らが破局する、直感がそう言うからだ。 キョンが彼女と口論を始めた。あっハルヒを突き飛ばした。彼女は逃げ出した。あとは彼女を 自 殺 さ せ れ ば 終 わ り ボクは彼女を追いかけ、呼び止めた。あんた誰、と涙を止めて言われた。 佐々木「私はあなたを箱舟へ乗せる者です」 ハルヒ「あなたが?今までありがとう、でも」 ハルヒはまた泣きはじめた。 佐々木「心配しないで。あれは照れ隠しさ」 ハルヒ「・・・そうよね」 ハルヒを傘に入れてなぐさめつつ計画を続ける。 佐々木「我々を楽園へ導ける箱舟は、哀れなる魂を大地から解き放つ」 ハルヒ「あたしはどーせ哀れな魂ですよ」 佐々木「救いを求めるあなたに『アーク』を与えよう」 ボクはポケットから「ただの」アーミーナイフを取り出すと、ハルヒに手渡した。 佐々木「これで刺せば楽園に行けます」 ハルヒ「本当に!?」 そこまで喜ばれてもな。最後の誘導をしよう。 佐々木「あなたはそれで先にイっててください。彼は私が連れていきます」 だがサイアクの誤算が起きた。 ハルヒ「あなたはしなくていいわ。あたしがキョンを連れていく!」 やめろ!そんなことしたら! 佐々木「あなたがする必要はないよ。バタシが」 ハルヒ「心配しないで。必ず成功するわ!」 佐々木「待て!」 彼のもとへ走る彼女を必死に追ったが見失った。ボクはがむしゃらに探した。 ボクが彼女を見つけた時、すでに手遅れだった。横たわる男と女。 ボクはその場で泣いた。せめてハルヒが死ぬ前に絶望を与えよう。そう誓いボクは目を閉じ、ヤツの意識を箱庭に送りどなった。 その間にも力はすり減っていった。ボクは最後に実験をしてみた。 「ラクエンへ堕ちろ」 そう言い箱庭との接続を解除した、ヤツを箱庭に送ったまま。実験の結果を知る気はない。 解除した直後、数人の大人に囲まれていることに気づいた。 執事「君が佐々木くんだね」 メイド「おとなしく拘束されてください」 ボクは大人の輪から逃げた。追いかける大人ども、あれは機関か。 逃げてる最中に気づいた。そういやキョンは死んじゃったんだ。じゃあ 生キテテモ仕方ガナイナ ボクは今車道を走っている。あっ車がきた。またせたねキョン。1、2、3! 古泉「彼女の容体は?」 森「以前変わりません」 僕は涼宮さんが入院してる病室にいる。森さんが応対してくれた。あれから三日経った。 あの日黒幕が「佐々木」という人物の可能性が高まり、彼女の監視に僕を含む大量の人員が派遣されました。機関の指揮官のミスで、涼宮さんの監視には誰も着かなかったようです。 佐々木さんの前に突然涼宮さんが泣きながら走ってきたのには驚きました。彼女らの話によると、彼に冷たくされたらしい。彼には忠告しておいたんですがね。 佐々木さんが彼女にナイフを渡し、彼女が喜んで走り始めたとき、危機を感じました。なぜか佐々木さんが慌てて彼女を追いかけたので、僕たちも追いかけました。僕は走りながら彼に危険を知らせる電話をかけました。 彼は応答しましたが、その直後に携帯電話が地面に落ちた音が聞こえました。涼宮さんが追いついた?しかし早すぎる。佐々木さんも彼女を見失ったようで、でたらめな方向に走ってました。 しばらくすると電話越しに何かが地面に倒れた音が聞こえ、その後に涼宮さんの歓喜とまた何かが倒れた音を聞きました。 いつのまにか佐々木さんが立ち止まってました。彼女の視線の先を見るとキョンと涼宮さんが倒れており、涼宮さんの左胸にはナイフが刺さっていました。佐々木さんは泣き始めました。 僕たちは彼女を包囲しました。彼女は気づかないのか、さっきから目をつぶったままである。と思うと目を開き僕たちに気づいたようです。 新川さんの合図で捕獲を開始。だが彼女は運動能力が高いのか、包囲網を抜けました。当然後を追いました。 道路の歩道に出て、だんだん彼女との距離が縮まってきました。そして突然 彼女は車道へ飛び出しました。 そして車にはねられ地面に落下。確認すると、即死でした。その顔は笑っていました。 機関はこの件を警察に引き渡しました。涼宮さんだけは奇跡的に生還しました。機関の働きで、彼女は警察病院でなく大学病院に搬送されました。 だが問題が起きました。彼女は意識がなく、何を言っても反応がないのです。脳死ではない植物人間のように。 なぜあの時涼宮さんがありえないスピードで彼の元にいたのか。仮説として、彼女の愛が力を一時的に戻したというのがある。もしそうならば、彼女は彼を「本当に」愛していたのだろう。 森「彼の葬式には是非彼女にも参加してもらいたいわ」 古泉「そうですね。涼宮さんを許してくれますよ、キョン君なら」 その時ささいな、本当に些細な奇跡が起きた。 森「あっ涙が!これは医師を読んだ方が」 古泉「いえそっとしておきましょう」 涼宮さんの閉じた目から一筋の涙が流れた。それは温かいもののように感じられた。 ここはとある一軒家。 兄をなくした少女はネコと遊んでいた。その目に涙をためながら。 少女が少しネコから目を離した。ネコは少女から逃げ、思い出の部屋へ向かった。少女は悲しみを隠しゆっくり追いかけた。 そこはまだ片付けていない兄の部屋。なにを思ったのか、ネコは机によじのぼった。 ネコは机の上の一冊の本を邪魔そうにどかした。その本は床に落ちた。ブックカバーは外れ、白い表紙が姿を現した。その表紙には鉛筆で文章が書かれていた。 兄は気づかなかったのだろう、「この本のメッセージ」がこれであることに。 文章はこう書かれていた。 最終手段として、世界を改変前の世界に戻すためのプログラムを記した。この表紙を見ながら「楽園へ」と言えば起動する。 だがこのプログラムは一つの代償がある。改変には起動者の生体情報を使う。つまり改変後の世界に起動者は存在しない。 私はあなたに消えて欲しくない。でもあなたが望むなら起動して。 今までありがとう YUKI.N 一人の少女の素直でない恋心が起こした悲劇。三人は等しく犠牲者。犠牲者たる彼らを救う幼き箱舟が一歩、また一歩と兄の部屋へ歩いていく。 ――――――end―――――
https://w.atwiki.jp/intru_400/pages/29.html
データ 生放送履歴 ( co9914 ) 生放送履歴 ( co9914 )2 生放送履歴 ( co9914 )3 生放送履歴 ( co9914 )4 生放送履歴 ( co9914 )5 生放送履歴 ( co9914 )6 生放送履歴 ( co9914 )7 その他 ニコニコ生放送で主をキレさせた奴が優勝7
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6559.html
Ⅴ 「‥‥‥誰、ってどういう意味かしら」 「そのまんまの意味だ。お前は誰だ。本物のハルヒはどこやった?」 そのハルヒはこちらにニヤリと笑った口下だけが見えるよう少しだけ振り返り、またもハルヒとおんなじ声色で俺へと返事をした。 「なあに、キョン。本物のハルヒ、なんて意味ありげな言葉言って。まるであたしが偽物みたいじゃない」 その通りだよ偽ハルヒめ。 「だって忘れちゃったんだから仕方ないじゃない。それとも何、そんなに大事な思い出だったのかしら?」 白々しいことを。どういう過程でこいつが全くハルヒと同じ容姿と声と性格を得たかは不明だが、本当のハルヒではないということが確かになった。となると、こいつが閉鎖空間を発生させたということか。畜生、よりによってハルヒの姿になりやがって。 「じゃあ教えてよ。もしかしたら思い出すかもしれないわ。どうやってあたし達はここから出たんだっけ? キョン、言いなさい」 誰が言うか。 「じゃああたしが本物か偽物かは分からないわね」 ウフフ、と小悪魔みたいな笑い方をした後、また偽ハルヒは窓へと視線を向け直した。後ろ姿からでも俺には分かる。きっとこいつは今、笑っているに違いない。 もうバレているのに、まだハルヒの真似をするのか。じゃあいい、とっておきの質問をしてやるよ。 「3年前の七夕、お前は何をした」 「何、って‥‥‥そう、東中のグラウンドに絵を描いたわ」 「ほう、一人でか」 「あたし一人じゃないわよ。女の人を背負った北高のお兄さんも手伝ってくれたわ」 「そいつの名前は?」 「ジョンよ。ジョン・スミス」 妙なとこまで知ってやがるな。となれば‥‥‥。 「ね? あたしは涼宮ハルヒよ」 「いやまだだ。お前、グラウンドで北高生に絵を描かせたのは覚えてるんだよな」 「絵の模様までは覚えてないわよ」 「それは別にいい。だがそこまで覚えてるんだったら分かるよな? その絵の意味を」 「‥‥‥‥意味?」 ここで偽ハルヒの言葉がとうとう詰まった。しめた。 「ハルヒが描いた絵はとある宇宙語なんだよ。お前が本物のハルヒなら、その日本語訳を絶対に知ってるはずだぞ!!」 後半怒鳴るような声でそう問いただすと、さっきまで余裕で答えていた偽ハルヒからはわたしのわの字も出なかった。ざまあみろ。これでこいつが本物のハルヒではないことが完全に証明されたぜ。 「‥‥‥フフ、そうね。確かにあたしはその言葉の意味を知らないわ。どういう形なのかもね」 そこまで言って、ようやく偽ハルヒはこちらへと振り返った。 「でもね、キョン」 「それでも、あたしが本物のハルヒよ」 「いい加減にしろ。お前がハルヒじゃないとはもう分かりきってるんだよ」 そう言う俺の言葉にも段々覇気がなくなっていた。振り返った偽ハルヒは、朝倉の顔をしていた! なんてこともなく、誰がどう見ようと涼宮ハルヒだったのだ。今の表情は俺にとってはいやぁな計画を思いついたハルヒのそれだった。 「キョン、あんたにとって‘涼宮ハルヒ’って何かしら?」 「‥‥どういう意味だ」 「あんたの言う‘涼宮ハルヒ’は、この顔をしていること? それとも声かしら? 自分勝手な性格? 身長、体重、趣味が完全一致している人物を指すの?」 偽ハルヒはそこで一旦言葉を区切り、団長と書かれた三角錐の乗った机の引き出しから腕章を取り出して 「それかこの‘団長’の腕章を身につけてる人のことを言うのかしら?」 と口にしながら腕章を右腕にはめた。 「違う」 「どう違うのかしら」 「お前はハルヒじゃない! だからいくらハルヒの真似をしたところでハルヒじゃない!!」 「ウフ、いいわよ。あたしはハルヒじゃない。あんただけにはそう認めてもいいわ」 だが偽ハルヒは勝ち誇った顔を浮かべ 「だけど他の人にはどうかしら?」 「何‥‥?」 「谷口や国木田、担任の岡部や鶴屋さんの目にはいつもどおりの‘涼宮ハルヒ’が写っているんじゃない? あんたがそうだったようにね」 「‥‥‥‥」 確かに反論は出来ない。 「だとしたら俺がお前が涼宮ハルヒじゃないと言いふらしてやるよ」 「どうやってかしら。あんたと‘涼宮ハルヒ’‥‥‥あと宇宙人の有希しか知らない事実でなんとかしようっていうの。笑えるわよ、キョン。頭おかしいと疑われるのがオチよ」 長門を宇宙人だと知ってるのか? いや、そもそも長門に攻撃不許可にしたのがこの偽ハルヒだったんだから、何もおかしくはないか。しかしあの見た目がハルヒの口から「宇宙人の有希」なんて言葉が出てくると妙な気分になるぜ。 「どうして長門が宇宙人だと知ってる」 「有希だけじゃないわよ。みくるちゃんは未来人で、古泉君は超能力者でしょ」 まさかこいつが新たな異世界人なのか? と一瞬疑問がよぎったが、その考えはものの見事に粉砕された。 「何故知ってるのか? って顔をしてるわね。ウフ、キョンは忘れちゃったのかしら?」 俺が忘れてる? 「そうよ。だって、長門有希が宇宙人っていうのも、朝比奈みくるが未来人というのも、古泉一樹が超能力者であることも‥‥‥あんたが教えてくれたんじゃない」 なんだと。 「俺はお前なんかに教えたつもりは‥‥‥」 「5月29日、日曜日」 偽ハルヒは俺の顔を見ず天井見上げてそう声を上げ、団長席の回りをゆっくりとした足取りで歩み始めた。なんだなんだ。 「今日はSOS団の活動の日。みくるちゃんと有希と古泉君は用事があるみたいで、よりによってキョンと二人きりだったけど仕方ないから同行してあげた。喫茶店でキョンにどうやって奢らせようか考えていたら、あいつ、妙なことを話し始めたわ。有希が宇宙人でみくるちゃんが未来人、古泉君が超能力者なんて言い始めたの。一生懸命考えたジョークなんだろうけど、全然面白くなかったわ。選んできた人材が偶然みんな宇宙人未来人超能力者なわけないじゃない。全く、聞いてて呆れたわ」 床の上に落ちた壊れたパソコンの液晶画面をさらにバリバリと砕くように足を乗せて、ハルヒは机の回りを一周し終えた。また横目だけで俺の顔を伺う。 「それに、」 「もし有希が宇宙人で、みくるちゃんが未来人で、古泉君が超能力者なら、あんたは何なのよ」 「‥‥‥‥」 それは逆に俺が聞きたいぐらいだ。まさか俺が異世界人でした、とかないよな。 「‥‥‥キョンは、何なのかしら?」 「さあな」 だんだんと麻酔銃を向けている腕も疲れてきたが、まだ下ろすわけにはいかない。聞かなきゃいけないことがまだ山ほどあるからな。とりあえず一つずつ疑問を解消させよう。 「今のはハルヒの日記か」 「‥‥‥‥」 偽ハルヒは黙っていたが、間違いない。 黒魔術の練習か、小さい頃から親に強いられてきたのか、あるいは日々の出来事に不思議が紛れこんでいるかもしれないと思ったのかどうかは知らないが、ハルヒはこまめにも日記を書いているようだ。どうりで妙に深いところまで知っているわけだ。ジョン・スミスとかさ。だがさすがのハルヒも、運動上に描いた絵のイラストや例の閉鎖空間での出来事を書かなかった。そりゃそうだ。俺が日記をつけていたとしても、あの出来事だけは絶対に書かない。 しかし日記を自由自在に見れるということは、本物のハルヒと完全に入れ替わったということだ。となるとハルヒはどこへ? 「‥‥お前は一体何者なんだ。何故ハルヒの姿をしている?」 「あたしが‘涼宮ハルヒ’だからよ」 くそ、話が進まん。多少の強引さが必要か。 「いい加減にしろ。正直に全てを話せ。じゃないと撃つぞ」 人を脅したことのない俺が声にたっぷりと威厳をこめてそう言ったものの、何せ腕がプルプルして重心が定まらない上に、何故か人差し指に力が入らないせいで様になっていない。人に向けてエアーガンの類のものを撃ったことがないのも関係があるが、姿がハルヒということが何より大きいだろう。 「ウフフ、言葉が足りなかったかもね」 麻酔銃を五百円くらいで売っているおもちゃを見るような目でハルヒは見つめた。もうちょっと怖がれよ。 「あたしは‘涼宮ハルヒ’。でもただの‘涼宮ハルヒ’じゃないわ」 「‘涼宮ハルヒ’のみが持っている全宇宙の中で一つだけ存在する能力。それを自在に使えるのがあたしよ」 ハルヒがゆっくりと右手を上げ人差し指を立てた後、勢いよくそれを振りおろした。 一体何やって――――――ぬわっ!? ダイナマイト爆弾が爆発したような音を立て、校舎が破壊されるのと俺が体制を崩したのはほぼ同時だった。窓の外を見れば、神人が元コンピ研があった部室を上から下まで腕を振り下ろし二分割にしていた。散々だなコンピ研も。 「無様な格好してるわね、キョン」 俺を見下ろしながら一人笑う偽ハルヒの笑顔は、やはりハルヒの笑顔とシンクロ率400%だった。 なんとか立ち上がり、また麻酔銃を向ける。 「‥‥‥何をした」 「命令しただけよ」 命令? 「神人にか?」 「‥‥‥‥‥」 偽ハルヒはそれぐらいの答えは言わなくても分かるでしょう? と教師がよくするような笑みをした。窓の外では相変わらず古泉が頑張っているのがチラリと見える。 しかしどういうことだ。神人ってのは、いわばハルヒのストレスの塊なんだろ。それを自由自在に操るとは一体‥‥‥。 「‘涼宮ハルヒ’本人から生まれた存在」 パソコンが踏み潰されているのをお構いなしに偽ハルヒはこちらに向き直し、ニヤッとグレたハルヒのような笑い方をした。 「だからあたしは本物の‘涼宮ハルヒ’なのよ」 涼宮ハルヒから生まれた存在? 何ワケの分からな――――― ‥‥ 「‥‥‥‥‥!」 その時、俺の中の記憶が走馬灯のごとくフラッシュバックした。ハルヒが楽しそうにしおりを作っているところから俺が告白しようとした時までの期間がわずか二秒で頭を駆け巡る感覚。その中に、ハルヒが妙なことを言っていたことがあったはずだ。そう、あれはハルヒが睡眠不足で苦しみながらも寝ずに放課後まで過ごしたあの日だ。俺が朝登校し、珍しくも心配してやった後、あいつは何て言った? ハルヒは俺に何を伝えようとしていた? 『ねぇ‥‥‥キョン。‥‥前に、自分がいかにちっぽけな存在かを話したじゃない?人ってさ、自分の中にさらに他の自分がいるとしたら、人の数なんていうのは、本当はもっと多いのよね‥‥‥そのたくさんある中の1つがさ‥‥‥その人物の人柄と見なされて表に出てくるのよね‥‥‥。でも、せっかく出てこれたその1人も‥‥本当は世界と比べたらちっぽけな存在で‥‥‥』 ‥‥‥‥。 「お前、」 ハルヒは眉だけをクイッと器用上げ、俺の反応を伺った。表情は相変わらずのダークハルヒ。 「もう一つの、ハルヒの人格か」 そう言った途端だ。ハルヒは、いや偽ハルヒは、ようやくにしてニヒルな表情を取っ払い300ワットの笑みを浮かべた。SOS団を立ち上げた時のような、身体全身から表現する喜びの感覚。今、目の前にいる偽ハルヒは完全に本物のハルヒだった。 「その通りよ!」 ‥‥にしてもなんてこった。俺はてっきり、名も知らぬ異能力者が完璧にハルヒに化けたものばかりだと思っていたのに、そのハルヒ本人から生まれたとは。オリジナルでありながらも、オリジナルよりタチが悪いハルヒ。 だがそんなのは関係ない。今この世界を閉鎖空間で丸呑みしようとしているのがこいつには違いないのだから、なんとかして危機を回避しなければならん。それにいくらハルヒ自身とは言え俺にとってのフル迷惑なハルヒはあのハルヒ一人だけで、こっちは偽ハルヒに変わりない。 「あたし自身、最初は気づかなかったわ。どうしてここに生まれてきたのか。何のために存在するのか。後から分かったの。何のために、という意味は無かったけど、いつ生まれたかはね」 ‥‥‥そう。そうよ。あたしのハッピーバースデーは‘涼宮ハルヒ’が夕食を食べながらテレビを見ていたあの時間帯。自由どころか感覚も無かったけれど、意識だけはあった。そんな意識も最初の内はぼんやりにしか働いていなくて、あたしはただただ真っ暗な空間の中で‘涼宮ハルヒ’の声が反響するのを聞いているだけだった。 反響する声の中で一番多かったキーワードが「キョン」。でもこの言葉が出る度にあたし自身も口では表せない楽しさが浮きあがっていた気がするわ。結果論だけどね。 ほの暗い場所で、あたしはただただ膝を抱えて‘涼宮ハルヒ’の会話というラジオを聞くしかなかった。何もしないで一日中ぼけーっとしてるだけ。本当に意味のない存在だったわ。 「でも、ある日を境にあたし自身が変わってきた」 反響する声の中で、‘涼宮ハルヒ’がこう叫んだわ。 『SOS団主催、読者大会を開きます!』 まさにこの日の夜、あたしという存在は確立された。『人格と精神』という本に‘涼宮ハルヒ’が読み始め、あたしの意識が段々と強くなっていったのよ‥‥。 「ってことはなんだ。医学の本をハルヒが読み始めたのは、本当に偶然だったのか?」 「‘涼宮ハルヒ’は多重人格には興味を持っていたけど、特段医学関連の本を読もうとは思っていなかったようね。テレビ番組のような難しい内容を、キョンに読ましたら面白そうだなとは思っていたけどね」 ‘涼宮ハルヒ’自身はくじ引きでどの本に当たろうと良かった。偶然医学の本を引き、たまたま多重人格に関心があったから『人格と精神』を手にした。 ‘涼宮ハルヒ’が『人格と精神』を読めば読むほど、あたしには力が湧いてきた。暗闇から立ち上がって歩くことも出来たし、さらには‘涼宮ハルヒ’が寝ている時に限り身体を借りることが出来たの。その時思ったわ。 ああ、 「この本を読み続ければ、乗っ取ることが出来る」 ってね。 「‥‥‥ハルヒを睡眠不足に追い込んだのはお前か」 「さすがに本人もおかしいと思い始めたわ。起きれば机の前に座って本を読んでるんだし、疲れも全く取れてないんだから」 次第に本を読むのを止めようとした。さすがに不思議事が好きでも、これは不気味だったようね。 でもあたしはそうはさせなかった。ここまで来て、中途半端な意識だけを持って終わりたくはなかった。だから、無理に読ましたわ。キョンならもう分かるんじゃない? 「‥‥‥深層心理を利用したのか」 よく出来ました。あれだけ哲学の本を読んでれば、いくらキョンでも分かるわよね。 ‘涼宮ハルヒ’の意識が及ばないところであたしはひたすら本を読むように命令していた。拒否も出来ずもがきながら本を読む‘涼宮ハルヒ’を見て、さすがにあたしも罰が悪かったわ。でも仕方ないわよね? あたしが生まれた以上、あたしだって身体を動かしたいわよ。 そんなことを無理矢理させていた日の夜、口では言い表せない何かがあたしの中に流れこんできたわ。あたしは戸惑ったし、対処の仕方も分からなかったからなすがままにそれを蓄えたわ。後から分かったけど、これが‘涼宮ハルヒ’の持つ情報爆発能力だったのよね。ありったけのストレスで作られたパワーは、あたしをより確実なものへと成長させた‥‥‥。 「閉鎖空間が発生しなかったのはお前が内側で貯めてからか」 「そうよ」 寝てようが起きてようが本を読まされる。あたしにとって、‘涼宮ハルヒ’を乗っ取るのも時間の問題だったわけよ。 でも、思いもよらない行動を彼女はとったわ。 寝ずに読み始めたのよ。本を自らね。読破する気だったのかしら。読み終わればなんとかなるとでも思っていたのかも。 でもあたし自身、‘涼宮ハルヒ’がこれを読み終わった後どうなるか分からなかった。彼女の多重人格の興味は消えて、別の本に手をつけるかも。そしたらあたしの力はきっと消えていく。あともう少しで身体があたしのものになるのに。 「焦ったわよ。でも、あたしはギリギリ逃げ切った」 「‥‥‥‥‥」 「さすがの‘涼宮ハルヒ’も仲間の前で安心しちゃったのかしら。とうとう疲れに疲れを溜めて、寝たのよ。そしてそんな弱り切った‘涼宮ハルヒ’を多大なるストレスで力を得ていたあたしが乗っ取るのはいとも容易かった‥‥‥‥」 「‥‥‥つまり、お前は、」 ‥‥ハルヒの奴、一人でそんな悩みを抱えてたのか。古泉の野郎、一体何してんだ。いつも通りなわけないじゃないか。朝比奈さんも長門も、どうしてあのハルヒに異常があると察しなかったんだ。なんですぐに集まって対策を練らなかった。 ‥‥‥‥‥、分かってる。一番悪いのは古泉でも、、朝比奈さんでも、長門でもない。一番身近にいながら、様子がおかしいと思いながらも何も出来なかった無力な俺だ。俺の知らないところで皆手を尽くしていたのかもしれない。でも俺は何も出来なかった。しなかった。せいぜい声をかけたぐらいだ。過去の俺を殴り倒してやりたいぜ。最悪だ、本当に。 なんたって、 こいつは、 「俺たちの目の前でハルヒと入れ替わった、ってことか‥‥‥‥!!!」 肯定の返事はなかったが、顔見れば分かる。朝比奈さんが感じた時空震とやらはおそらくこいつが入れ替わった時起こったものだろう。そういやあの日は長門の様子もほんの少しだけ違ったし、何よりもハルヒの様子がおかしかった。あいつの機嫌が良くて俺に礼まで言ったのは、テンションが最高にハイってやつになっていたからか。ハルヒじゃなく、こいつの。 「あたしはいつも‘涼宮ハルヒ’の目と声を通していたからね‥‥誰にどう接して、どういう仕草を取ればいいかも分かっていたわ」 そうかい。完全に騙されてた。お前の演技も主演女優並だな 。 「ということは、今度はハルヒが内側にいるのか?」 「そのことなんだけどねー」 偽ハルヒは喋りすぎて肩でもこったのか、首をゆっくりと回した。右回り、左回りとした後に俺を見て、その後掃除箱の方へ見やる。 「あたし家に帰ったあと、思ったのよ。もしかしたら‘涼宮ハルヒ’が身体を取り返してくるかも、って」 「だから思ったわ。あたしだけの身体があればいいのに、って。そしたら‥‥‥」 偽ハルヒは高々と右手を上げ、指をパチンと鳴らした。一体何をしたのか。俺の左側にある掃除箱がガタンッと音を立てた。中のほうきが倒れたにしては音がでかすぎる。ビクッと身体を仰け反らすと、掃除箱のドアがひとりでに開き‥‥ 「‥‥‥‥‥ハ、」 見知った人物が重力に導かれるまま倒れこんできた。 「ハルヒ!!!」 何故掃除箱から、などという疑問をよそにハルヒは前のめりに床に激突しようとしていた。危ない! 麻酔銃を投げ捨てハルヒをギリギリで抱きかかえる。だが顔から打たなくて良かったと安堵する前に、俺はハルヒの軽さに驚いた。いくら女とはいえ軽すぎだろ。 急いでハルヒを仰向けにし、顔色を確かめる。思っていたほど頬がガリガリと言うわけではなく、少しだけ俺は安堵した。 「ハルヒ。おいハルヒ! 起きろ!」 「‥‥‥‥‥」 肌は健康色。だがその割には反応に生気を感じられない。冗談は止めろマジで。 「‥‥あたしがあたし自身の身体を手に入れた時、不意に分かったの」 「ああ、あたしには‘願望を実現させるチカラ’があるんだ‥‥ってね」 「それで結果ハルヒは二人になったわけか。まるで分身の術だな」 もちろん分身はお前の方だがな、という皮肉を言ってやろうと思ったが、偽ハルヒが手も触れずに俺の麻酔銃を手にした瞬間にそれは喉の奥へと引っ込んだ。強力なサイクロン掃除機を使ったみたいに手の平に吸い込まれやがった。唯一の武器が‥‥‥。 「あたしはこの能力が、一体どこまで出来るのか知りたくなったわ。で、思いついたワケ。キョン、分かるかしら?」 そんなもん俺が知るわけないだろ。 「じゃあ教えてあげるわね! あんたがあたしに告白してくるかどうかを試したのよ!」 ‥‥‥‥なっ‥、 「なんでだ‥‥?」 何故あえてそれにしたんだ。 「んー、なんでかしら。強いて言うならあんたに興味があったから」 俺に興味? 「だって、あんただけ何もないじゃない。宇宙人でも、未来人でも、超能力者でもないし、あたしみたいな万物の創造みたいな能力もない。だけどあんたはSOS団にいて、‘涼宮ハルヒ’と仲が良いわ。日記見てたら分かるもの。‘涼宮ハルヒ’があんたにどれだけ信頼を置いてるのかが」 映画の時にも古泉に言われたな。ハルヒは俺だけは絶対に味方だと信じてる、ってことを。 「だがそれと、お前に俺が告白するのになんの関係がある?」 「‘涼宮ハルヒ’が気に入ってたものは、あたしも欲しくなるに決まってるじゃない」 物扱いかよ。俺は非売品だぞ。 「自分から言うんじゃ、‘涼宮ハルヒ’らしくないからね。だからあんたから言うように、状況を作ったの!」 わざわざご苦労なこった。だから哲学書十冊も読ませようとしたのか。 「放課後あたしみたいな子と二人きり。あとはあたしが願ってさえいればすぐに告白してくるだろうと思ったの」 でもしなかった、と。 「そうよ。あんたがチキンだから告白をしてこなかったわ。まだまだムードが足りないからかしらとその時は思うことにしといたわ」 悪かったなチキンで。 「だから、あたしはあたしとキョンの間に噂が広がればいいのにと願ったの。そしたらキョンもその気になるかなってね」 ‥‥‥残念だったな、俺がチキンの上に超がつくような人間で。 「そうよ! それでもあんたはあたしに告白しなかった。さすがに少しは意識してたみたいだけど」 フフン、と得意気に笑う偽ハルヒの顔を見ていると、俺が抱えているハルヒが偽物であそこで立ってる偽ハルヒが本物に思えてくる。姿が似てるってのも厄介だな。 「あともう一押しって感じだった。だから、あたしは古泉君達に賭けたの」 「それは長門や朝比奈さんを含めてという意味か?」 「そうよ。あんたがあたしに告白せざるをえない状況をあの三人なら作れると思ったの」 『真相が違ったのです』 ‥‥‥‥。 なるほどね。 「だがお前の考えも当てが外れたな。朝比奈さんは途中で気づいたぞ。お前が能力を使えるようになったことをな」 「みくるちゃんがあんたに手紙を渡したのを見た時、まさかとは思ったわ」 見てたのかお前。 「あんたとみくるちゃんが話してた内容まで聞いたわ。みくるちゃんがそのことに気づいちゃうとは思わなかったけれど、それをキョンに話そうとまでするなんてね‥‥‥ひたすら祈ったわ。誰かが邪魔するようにって」 「誰かって、誰‥‥‥」 ‥‥! 谷口か。 「あたしが作り出した‘谷口’だけどね。あんたとみくるちゃんの会話を邪魔するためだけに生まれた」 ‥‥‥こいつの話で大体の真相が見えてきた。つまりこいつは色々なことに能力を使いまくってたというわけか。 見事に遮ることに成功した偽ハルヒは、これ以上邪魔が出ない内に強行手段に出た。それが今日の放課後だ。俺が偽ハルヒに告白までしそうになったことは全て偽ハルヒの計算通りであり、まんまと俺は餌に釣られて釣針を口に含んでしまった魚よろしく、事を進めてしまった。俺が偽ハルヒの肩を掴み、耳を真っ赤にしながら口を開いた瞬間、偽ハルヒを勝利を確信したのだろう。俺は見ず知らずの相手に愛を伝えてしまうところだった。そう、あと少し、ゼロコンマ2秒遅かったら。遅かったらって何が? それはわかるだろう? 「長門に感謝しなくちゃな‥‥‥」 今度集まりで奢る時は、食べきれないほどのパフェを奢ってやるよ。おかわり自由だ。 「本当に‥‥本当にあと少しだった。でもあの宇宙人が邪魔をした」 「長門はSOS団の影のトップなんだよ。途中でお前が別人だと気づいたんだろう」 これまで多くのことで長門に助けられてきた。それなのにあいつは、不平不満言わずにちゃーんと見守っていてくれていたんだ。夏休みの時なんざ、人間ならとっくに死んでてもおかしくないくらいの年月を過ごしてきたんだぜ。 「でもそんなあんたたちの唯一の頼りである有希には制限をかけておいたわ。あたしに害のある行動は行わないようにね。だからこの状況は、もうどうにもならないわよ!!!」 再び耳をつんざくような破壊音が鳴り響き、校舎が振動で震えた。無意識にもハルヒに覆い被さり守ろうとしたのは、男としての性ってやつか? 「ウフフ、キョン。ゲームオーバーよ」 そうニヤリと笑いながら口にし、こちらに歩み寄ってくる。来るなよ。 「あんたがどうやってあたしだけの世界に来たかは知らないけど、あんたにこうして全部話したのも、結果が決まってるからよ」 「一つ聞きたい。この空間はお前が意図的に起こしたものか?」 麻酔銃をこちらに向け、ニコニコという笑みに変えた後 「そうよ」 とだけ偽ハルヒが言った。そんなことまで出来るとはね。 「‘涼宮ハルヒ’の内側にいた頃、自分の中に流れ込んでくるパワーを爆発させてみたくなったのよ。そしたらこんな面白い空間が出来ていたなんてね。古泉君はその処理担当かしら? 日に日にやつれていくのを見てて、とっても面白かった」 姿形はハルヒでも、やはりお前は根本からハルヒと異なるな。カマドウマ以下だ。 「そんな口、聞いていいのかしら?」 「‥‥‥‥っ」 偽ハルヒは俺の眉間に麻酔銃を向け、引き金に指をかけていた。麻酔銃なのだから死ぬことはないだろうが、それでもやはり怖いという感情は隠せない。やばい、冷や汗出てきた。 「キョンなんて、何も出来ない無力な人間じゃない。どう? いっそのこと、あたしと同じような能力を持って一緒にここの空間で生きていく? 半分は上げるわよ」 まるで魔王みたいな取引をしてきやがった。なんだっけ。昔したゲームでは、確かここで『はい』の選択肢を選ぶとゲームオーバーになるんだっけか。 「もし、俺がうなずいたならどうする?」 虚を突かれた表情に一瞬変わったが、すぐに聖母マリアのような微笑みに戻し、 「あんたとなら、二人で生きていくのも悪くないわね」 とだけ言った。 お前、今もの凄く恥ずかしいセリフ吐いたんだぞ。そのこと分かってるのか。 しかし偽ハルヒは恥ずかしがる様子をちっとも見せず、相変わらず麻酔銃を向けたままだった。 「本当に、うなずいたら俺のことを助けてくれるんだな?」 「ちゃんと肯定したらの話よ?」 そうかい。助けてくれるんだな。 本物のハルヒを静かに床に寝かせた後、言ってやった。 「だが断る」 思いっきり偽ハルヒの右手を叩きつけ、麻酔銃を弾け飛ばした。偽ハルヒが不意を突かれている内に、西部劇のワンシーンのように掃除箱の側に落ちた麻酔銃をすぐに拾い上げる。俺が銃口を向ければ、はたかれた右手を見つめる偽ハルヒがそこにいた。なんだこれ。半端ない罪悪感がこみ上げてくる。 「‥‥‥‥悪いな」 本当にそう思ってるから言葉にした。 「だが、俺はまだ本当の世界に未練があるんだ」 「‥‥‥‥‥」 偽ハルヒはただただ右手だけを見ていた。俺が叩いたその手の甲は赤くなっている。 「‥‥‥‥お前に恨みはない。だが、ハルヒのためにもここで眠ってもらう」 俺が引き金を引こうとした時だ。偽ハルヒはボソボソと何か言った。 「‥‥‥‥‥‥」 「え、なん‥‥‥」 俺が言い終わらない内に偽ハルヒはこちらに飛び込み、あろうことか今度は俺の右手を思いっきり蹴飛ばした。よくそんなに足が上がるな、と感心する前に鋭い痛みが右手に走る。 「いっ‥‥‥!!」 たい、という前にまたもや高速で蹴りが腹に入れられる。言葉より先に嗚咽が出た。 「あぐぁっ!!!」 スレンダーな足のくせして破壊力満点の蹴りだ。サッカー選手だってもう少し躊躇するぞ。 俺は偽ハルヒにキックで吹っ飛ばされ、壁に背中を強打した。またその反動でひざを床につけてしまい、腹を抱えながら恐る恐る上を見上げれば、無情にも俺を見下ろす偽ハルヒがそこにはいた。視線の先が俺から、横たわっている本物ハルヒへと移る。 「そんなにこっちの‘ハルヒ’が大事かしら?」 いかん。矛先がハルヒの方に向いている。 おそらく注意をこちらに向けないと、この偽ハルヒはハルヒに攻撃するだろう。女の子を攻撃するなんて男のすることするじゃねえ! っ叫ぼうとしたが、困ったね、こいつ女だった。 というより論点はそこじゃない。こいつがハルヒに攻撃して、本物が起きちまったらどう説明しても後々とりつかない事態になることは明確だ。なんとかしなければ。 「‥‥ふ、はは。なんだよ今の蹴り。それがお前のマックスか?」 腹を猛烈に庇っている男の吐くセリフじゃないな。 「何よ、キョン。もっと蹴られたいのかしら? マゾ?」 でもこっちの偽ハルヒも単純で良かった。 俺はずりずりと壁伝いになんとか立ち上がり、一方で腹を押さえながらもう一方の片手は偽ハルヒへと差し出した。 「‘本物’のハルヒならこんなもんじゃないぞ。一度だけ思いっきり蹴られたことがあるが、あの時はホント、この世に医者がいなかったら死んでたかもしれん痛みだった。にしてお前の蹴りはどうだ。不慣れな格好で蹴ったにしては威力は高かったが、‘本物’なら同じ格好で俺をまた瀕死状態まで追い込むぞ。背丈姿形性格一致で黄色いカチューシャと腕章つければ‘本物’のハルヒになったつもりか? だとしたらお笑いだぜ」 もちろんデタラメだ。だがそこまで言ったところで、偽ハルヒが強烈な回し蹴りを繰り出して、俺はなんとか右手でガードした。相変わらず超ド級クラスの痛みが右手から体全体へと響き渡り、音だけ聞いていれば折れたかもしれんと思えるようなものだった。蹴りの達人かお前は。 「ぐぅっ!!」 「‥‥‥‥どうかしら?」 どうって何がだよ。気持ちいいです、って言えばいいのか? 悪いが言えない。マジで痛い。 だがやめてくださいとは言えん。俺が実はマゾで、本当は気持ちいいのを体験しているからではない。 「‥‥‥むちゃくちゃ痛いさ。でも所詮はそんなもん。痛い程度だ。入院までしない」 逆に蹴りで入院した奴を見てみたい気もするが。 「‥‥‥‘涼宮ハルヒ’はあんたに随分手荒だったようね。日記にも書いてないというのは反省の色も見られないわ。なんでそこまでして‘涼宮ハルヒ’を守るの?」 守る、か。嘘がバレてるなこりゃ。じゃなきゃこんな言葉出ねーよ。そりゃバレるだろう。うん。一応こいつも偽ハルヒだしな。 「‥‥‥お前の知らない世界での話さ。日記にも綴られていないとある空間の出来事で、俺はハルヒと共にそこを脱出した。その時気づいたのさ。出会って二ヶ月だったがな、人間いつどこでそんな感情が芽生えるか分からん。たまたま俺はそれが早かっただけさ」 ハルヒが起きてないことをひたすら祈る。 「その脱出以来、決めた。例えどんなことがあっても、それこそ重傷ものの蹴りを喰らっても、ハルヒと共にまたここに来た時には、絶対に二人で元の世界に戻るってな」 「‥‥‥‥‥」 神人の青光が強くなってきている。とうとう校舎全破壊する気か? だが、その前に。 「‥‥返せよ」 俺は精一杯怒気を効かせて、偽ハルヒに言ってやった。 「その腕章は、」 蹴りを喰らっていない左手を偽ハルヒへと差し出す。 「ハルヒのものだ」 偽ハルヒは右腕にはめてある腕章を見つめた後、不意にニヤッと笑った。 「まだ分からないの?」 顔に集中している間に右足に痛みが走る。ローキックがかまされていた。 痛みに耐えかねて俺は床へと倒れ、ひたすら歯を食いしばりながら右足に手をやった。そして偽ハルヒはゆっくりと上履きのつま先を俺の顎へとくっつけ、蹴ろうと思えば蹴れるのよと言ったような顔をした。 「あたしが本物の涼宮ハルヒよ」 顎にあった足を引き、まるで顎下にサッカーボールがあるかのように思いっきり蹴りを俺に喰らわせようとする。さすがにこれ受けたら脳震盪を起こすに違いない。北高初の蹴りで入院した高校生第一号になってしまう! 偽ハルヒの足が消えるような速さでこちらに向かってきた時、俺は現実逃避するがごとく目を閉じた。 痛みを覚悟した瞬間、また何かが壊れる音を聞いた。とうとう俺の顎が砕けたか? だがそんなことはなかった。物理的破壊の音は確かに聞こえたが、それでも俺に痛みはなかった。何がどうなってるのか。まぶたが暗闇しか写さないので、おそるおそる開けてみると‥‥‥‥ 「‥‥また邪魔するのね」 「‥‥‥‥‥」 いつぞやの光景がフラッシュバックする。あの時もそう。もう駄目だ、と思った時に突然俺の前に現れた。そして必死に守ってくれた。そんな彼女はSOS団の最後の切り札と言ってもいい。 長門は偽ハルヒのつま先を片手で受け止めていた。 「‥‥‥‥‥‥」 ふと隣を見れば壁に穴が開いている。隣のコンピ研の部屋から力ずくで入ってきたらしい。しかしよくここに渡ってこれたな。コンピ研の部屋はもう床も天井もないんだぜ。 「あんたはあたしに攻撃にできないはずよ」 「攻撃は許可が下りていない。しかし彼を守る許可は取り消されていない」 偽ハルヒの足の筋肉はどうなっているのか、ひとっ飛びし一瞬にして団長机前まで下がる。あいつ本当は朝倉の親戚かなんかじゃないのか。 「涼宮ハルヒを連れて遠くへ」 「いや、しかし、」 「大丈夫」 大丈夫、か。今日で二度目だなその言葉。 長門の登場と言葉に安堵する刹那、文芸部の天井が砕け散り、瓦礫が俺たちを襲った。 「あぶねっ!」 我が身を横たわっているハルヒの上に被せ、瓦礫による痛みを覚悟する。‥‥、二秒経過。痛くない。 「早く‥‥」 長門がバリアみたいなものを作り上げ、瓦礫から俺たちの身を守っていた。何から何まですまない。 「やるわね有希。じゃあこれはどうかしら」 「‥‥‥‥」 偽ハルヒがまた何かする気だ。これ以上俺たちがいれば長門に今以上の負担をかけることになる。ハルヒを抱き上げて俺はドアノブを握った。よもや映画以外でハルヒをお姫様だっこすることになるとはな‥‥‥。 「‥‥‥って、」 ガチャガチャとドアノブを捻りながら押したり引いたりを試みる。だがドアはまるで意志を持ったかのように開かない。どういうことだよ‥‥カギはかかってないぞ! 「‥‥‥‥!」 人間には聞き取れない速さの言葉で長門が何かを呟くのが聞こえた。嫌な予感しかしない。 「吹っ飛びなさい!」 長門の半球の形をしているバリアがなければ死んでいた。それぐらい強烈な死が空から降ってきたのだ。 荒々しい轟音を鳴り響かせコンピ研を完膚なきまでに粉砕した、見覚えのある拳が今まさに俺たちを叩きつけようとしていたのだ。障壁がなんとかそれを喰い止め、俺たち三人は事なきを得た。しかしバリアを通じて伝わる衝撃は並々ならぬもので、それは長門の膝がガクンと一段階下がるほどのものでもあった。 「早く‥‥‥‥」 無機質な声なんだが、俺にはわかる。かなり切迫詰まっている長門の声だ。神人のパンチは朝倉の比ではないらしい。 急がなければ。しかしドアは相変わらずボンドを隙間に流し込んだみたいには開かなかった。 舌打ちをしながら一度思い切り蹴ってみる。音だけは威勢がいいが、破れる気配が全くない。 神人は圧力をかけ続けており、またさらに長門の膝がガクンと下がった。それに順じてバリアも小さくなる。長門は何も言わなかったが、相当やばそうだ。なんとかここを突破しなければ長門がもたない。だがドアが以前として開く様子がゼロだ。 焦りだけが心内で広がっていく。 「くそ‥‥‥開けよ!!」 中段蹴りを何度も何度も喰らわせるが、それがどうしたと言わんばかりにドアは立ちふさがる。長門の膝がとうとう床についた。 「キョンったら、無様ね」 偽ハルヒの余裕綽々な声が聞こえた。今どんな格好しているかは分からないが、おそらく団長机の上に座って事の成り行きでもせせら笑いながら傍観しているんだろう。悪趣味め。 「‥‥‥‥‥っ」 まさか長門が来てからよりピンチになろうだなんて誰が思った? 誰も思いやしなかったさ。少なくとも俺は、長門がやられかけてるとこなんて信じられなかったからな。タイマンなら絶対に負けないだろう。だが俺たちを守りながらほとんどの技術が規制されれば話が別だ。条件は長門側がずっと悪くなる。 それでも長門は何とかしようとしている。俺は‥‥俺は、無力だ。‥‥‥ ‥‥ ‥‥‥嘆いている暇はない。ドアが無理なら一つだけ方法がある。バリアを抜け、長門がぶち破ってきた穴から出るのだ。出ても一階の床に落ちるだけだ。ちゃんと足からつけば死なないだろう。 覚悟を決め、ハルヒを抱えたままバリアの外へと飛び出そうとした。 バリアを抜けたまさにその時だ。意固地に開かなかったそのドアが爆発音と吹き飛ばされた。一体なんだと戸惑っている内に、小さな赤い球体が長門の首横を電光石火のスピードで通り偽ハルヒへと飛んでいく。偽ハルヒはそれを目を見張るような瞬発力で避け、床へと突っ伏した。やっぱり団長机に座ってたか。 「こっちです!」 グワシャーンと窓ガラスを盛大に粉々にする音が聞こえたが、それでも奴の声は聞こえた。ナイスタイミングだな。 バリアをくぐり抜けてドアへと走り寄る。案の定そこにはSOS団副団長こと、超能力者古泉がいた。 「朝比奈みくるから事情を聞きました。急いで逃げてください」 「朝比奈さんからだと?」 「詳しい話は彼女から。‥‥長門さん!」 古泉は長門そばまで詰め寄り、対神人に躍り出た。赤い球体を何個か神人の拳にぶつけ、ダメージを与える。宇宙人のバリアにはびくともしなかった神人の手は、まるで腫れ物に触ったかのように手を引っ込めていった。やっぱり古泉の能力は閉鎖空間内では強いんだな。 「キョン君、こっちです!」 ドアの向こう側に朝比奈さんが待機していた。俺は長門と古泉を後にして、ようやく廊下へと出た。 「ハルヒのことを?」 「はい。長門さんが、情報規制が一部緩和されたと言われて話を聞きました」 緩和ね‥‥。偽ハルヒが俺に正体を打ち明けたからか? 「キョン君、行きましょう」 ボロボロに崩れてきている校舎の中を、俺はハルヒを抱えて朝比奈さんの後についていった。 ハルヒがいくら軽いと言っても、お米十キログラム四個分くらいはあるだろう。おまけに体のあちこちが偽ハルヒのせいで痛む。そんなだから、俺は朝比奈さんの同じペースで逃げることが出来るというものだ。むしろ朝比奈さんより遅い。 だがハルヒを出来る限りあの偽ハルヒから遠ざけなければ。もはや朝倉同様、こちらを殺す気にかかってきているのだ。そんな奴のそばにハルヒを置いておけるか。 「キョン君、こっちです」 いたるところが崩れボロボロの校舎の中で朝比奈さんの柔らかいボイスは見事なまでに対になっていた。ちょこちょこと道を先回りして朝比奈さんはナビゲートをしてくれる。何を根拠に道を選んでいるのかは不明だが、とりあえず偽ハルヒからは離れているだろう。それでいい。 「ハルヒを安全な場所に置いた後、俺はもう一度あいつのところへ戻ります。朝比奈さんはハルヒと一緒に‥‥‥」 「ダメです! ケガがひどいんですから、無理をしちゃいけません」 無理というより無謀に近い。行ったところで何の役にも立たないだろう。というより邪魔だろうな。 だがもう一度だけあのハルヒの方に合わなきゃならない気がした。長門と古泉相手に、あの偽ハルヒが大人しく座談会開いて平和解決しようなんて言うとは思えないのだ。 どうにかこうにか、俺と朝比奈さんは東館の端っこまでやってこれた。とりあえず一安心だ。ここならば偽ハルヒも何も出来ない。 「では、朝比奈さん‥‥」 「‥‥‥‥‥」 朝比奈さんは目をショボショボさせてうつむいた。そんな顔されたら行きたくなくなる。ここらで一言 「必ず戻ってきます」 と言うのもいいんだが、なにやらそれが良くない方向へと事を運びそうなので控えておいた。 「無理しちゃ‥‥駄目ですからね」 俺は黙ってうなずき、身体に鞭打って部屋を出た。もう一頑張りしなきゃな。 ‥‥‥‥しかし部屋を出た直後、急遽朝比奈さんの下へ身を翻した。お別れのキスを忘れてたよ、とかそんな御伽噺チックじゃない。窓から差し込む光に、嫌と言うほど見覚えがあるからだ。 「あれ、キョン君‥‥‥?」 「部屋を出てください!!」 ハルヒの両脇を乱暴に掴み、ズルズルと引き摺るようにして部屋の外へと運ぶ。朝比奈さんも続いて部屋を出て、窓の外と俺の態度を見てようやく事態を理解したらしい。池に落とされる時の朝比奈さんでさえ、こんな青ざめた顔色してなかったぞ。色的な意味で。 グワシャッ、と3階と粉砕される音が耳に届いた。まずいまずいまずい。 朝比奈さんは 「きゃああああああ」 といかにもお化け屋敷を駆け巡る少女のような悲鳴を上げ走って行ったが、俺はハルヒを運ばなければならない。もう腕の上に任せる時間はない。悪いがこのまま引き摺るぞ。 一階の天井にとうとうヒビが行き渡り、そして瓦礫の山と共に神人の手の平が降ってきた。懸命に引き摺ったおかげか神人の手とは距離のある位置には俺たちは来ることが出来ていた。だが一度どこか崩れると、連鎖反応のように崩れてしまう天井の破片が俺たちを襲ってくる。ひたすらハルヒに当たらないことを祈りながら全力で逃げる。 なんとか逃げ切り瓦礫の山の一部とならずに済んだ俺は、ハルヒを抱え上げ次はどこに行こうかと思惑した。まさか神人がもう一体出てくるとはな。西館に逃げるのが良いのだが、しかしそれではあっちの方の神人に‥‥。 「キョン君っ!!」 先に行ってしまわれていた朝比奈さんが小走りでこちらで戻ってきていた。無事で良かった。 だが朝比奈さんの背後を見る限り、無事とはほど通そうな状況になっていることに俺は気づいてしまった。 なんと、瓦礫が崩れこちらにまで被害を及ぼそうとしているではないか。ハルヒを抱えて、ちょうど今俺のいる位置と朝比奈さんのいる位置の中間地点にある階段の方へ走り、朝比奈さんにもこちらへ来るよう呼びかけた。岩なだれのように降ってくる天井を見ながら早く早くと俺は心の中で朝比奈さんを急かした。遅いなりにも―――あれが朝比奈さんの全速なんだろう―――ギリギリのとこで角を曲がり切ることに成功し、三者ともなんとか今は無事だということが確認出来た。階段だってもうほとんど瓦礫に成り代わっていたおかげで足元が不安定極まりないのだが、ここにいればひとまず瓦礫に怯えなくても済むというのがありがたい。上を見上げれば見えるは夜空のムコウ。 「‥‥う、運動場に‥‥‥」 もうどこにいようと危険地帯だと思いますよ。 「そ‥ぅ、ですよね‥‥‥」 息は荒いし涙は出るしで、おそらく未来にいた頃よりもよっぽど恐ろしい体験をしているのだろう。周りを見れば神人だらけだしな。 「‥‥‥あのハルヒの方へ戻りましょう」 「でも‥‥‥」 その先の言葉が朝比奈さんの口からは出なかった。俺が同じ立場でも出ない。 こうなったらもう偽ハルヒを羽交い締めしてでも動きを拘束して、偽ハルヒから能力を取り返すしかない。二人より三人。三人より四人だ。 神人に気づかれないよう‥‥‥というよりあいつら目が無いのだが、俺たちの位置分かって攻撃しているのか‥‥‥? まあさておき、再び旧館に戻ることにした。長門と古泉の二人が相手ならば、いくら反則みたいな能力でも多少は苦戦を強いられるだろう。というよりやられておいてくれないと困る。 瓦礫の道はやはり進みにくく、俺はハルヒをおんぶに変更し先を行き始めたのだが、‥‥‥やめときゃ良かった。背負ってから後悔したものだ。集中出来ん。 神人はと言えば東館の校舎をミニチュアハウスをいじる三歳児のごとく乱暴に壊しており、しばらくはこちらに来る様子がない。それはいいことだ。俺たちは無事に旧館へと着いた。 長門達はおそらく二階にいるはずだ。だからハルヒは文芸部の部室真下の部屋に置いておこう。俺としても、これ以上背負っていると罪悪感が膨れ上がりそうだったしな。 「朝比奈さんはここにいてもらえますか?」 「‥‥‥はい」 不安そうな返事をした。ただでさえ落ち着かない心境なのに、ハルヒのことを守らなければならない立場となってしまったからな。俺としても本当は二人で行きたい。しかしハルヒをここに置いてきぼりとなると‥‥‥‥にしても、さっきまで耳をつんざくような音を体験したせいか、こちらがえらい静かに思える。荒々しい戦闘を繰り広げているのではないのか? 背中に冷たいものを感じた。これは何か始まる予兆にしか思えない。 俺は朝比奈さんに背を向け、開けっ放しにしておいたドアへと進んでいった。がすぐに足を止めた。 さっきは行く途中で取り止めとなったが、今度は行く前に取り止めとなった。何故かって? ご丁寧にもあちらから来てくれたからな。 ドアがひとりでに閉まったかと思えば、誰かが暗闇の中からこちらに歩いてくる。長門なら忍者のように音もなく歩くはずだし、古泉ならばまず声をかけてくるだろう。となれば一人しかいない。 「お前か」 背後の窓からまた盛大に青い閃光が広がり、そいつの姿を映し出した。やっぱりね。 「長門や古泉をどうした」 「さあ? 帰ったんじゃない?」 まるで放課後の会話みたいな口調で偽ハルヒは答えた。朝比奈さんは 「あわわわわわ」 と小声だが、驚いているようだった。偽ハルヒとしてこのハルヒを見るのは初めてのようだ。 「有希が言ってたわ。そっちの涼宮ハルヒがいれば、あたしから能力を奪ってこの閉鎖空間を消すことが出来るって」 「そうかい。そりゃ良かった」 でも偽ハルヒから能力を取って本物のハルヒにかえすなんてこと、長門以外出来ないぞ。そもそも長門もそんなこと出来るのかどうか知らないんだが、今は信じるしかない。でもハルヒの能力を一時的にしろ場所移動が出来るということは、長門ならその力を応用して自分の思い通りに世界を造り変え‥‥‥何を馬鹿なこと言ってんだ。長門がそんなことするわけないだろ。 ともかく、長門達が来るまで時間稼ぎをしなければ。神人をそばで待機させているだけなのを見ると、すぐに攻撃をしてくるなんてのはなさそうだ。 ハルヒとその傍に寄り添っている朝比奈さんを庇うように、一歩前に進み出る。ということは偽ハルヒに少し近づいたことになるのだが、そのハルヒにはこっちのハルヒみたいに服に汚れやほこりが被さっているなんてことはなく、本当に長門と古泉を相手にしていたのか疑問せざるをえないほどいつも通りのハルヒの格好だった。髪に手を絡め、なびかせるように手を払う。ああ、ハルヒもよくそんな仕草してたな。 「‥‥‥あんた達に希望はないわよ」 そして第一声にこれだ。そんなのまだ分からないだろ。 「分かるわよ。あと数分もすれば、完全に世界は入れ替わる。こっちが本物になってあっちが偽物になるのよ。そしたら神人はこちらから消え、あちらの世界で破壊し尽くすからよ。古泉君も能力を失うし、有希もあたしを見守ることになるわ」 「どうしてこっちの世界にこだわる。お前は本当の世界を壊して、それで何になるっていうんだ。これ以上思い通りになる世界が欲しいっていうのかよ」 「‥‥‥‥」 買ってもらったばかりのおもちゃを壊されてしまったかのような顔をした後、偽ハルヒはボソッと、朝比奈さんまでには届かない声量で何かを言った。 「‥‥本物がいいの」 「‥‥‥‥」 そんな切なげに言われたら、どう返せばいいんだ。というよりもお前、自分で「本物」を連呼してたじゃねーか。 「あたしは本物だったわ。あんたに正体がばれる前まではね」 「‥‥‥俺が否定したからか?」 「そうよ」 そうなのかよ。 「だからあたしは本物となる。現実と閉鎖空間が入れ替われば、あたしが確実な本物となるはずよ。‘涼宮ハルヒ’はあたしとなって、’涼宮ハルヒ`が涼宮ハルヒとなるの」 「ワケ分からないこと言うな。ハルヒはハルヒでお前はお前だ。違うか?」 「違うわ。キョンは何も分かってないわよ」 さっぱり理解出来ない俺をよそに、朝比奈さんの方は 「涼宮さん‥‥」 とポツリと呟いていた。何が何だか‥‥‥。 「どっちにしろ、もう時間がない。お前にはハルヒに能力を返してもらうぞ」 「‥‥‥フン。キョンに何が出来るって言うのよ。有希がいなくちゃ何も出来ないじゃない。頼りきりのあんたがあたしに勝てるの?」 ‥‥‥‥。 「ほら、反論出来ないでしょ? 大人しくあたし側についたら?」 偽ハルヒの言うとおり、俺は反論出来なかった。長門がいなければ朝倉にナイフでメッタ刺しに殺されていただろう。古泉がいなければ閉鎖空間なんぞ知らないで焦りまくった挙げ句神人に踏み潰されてたかもしれん。朝比奈さんがいなければ、ハルヒの能力が目覚めるきっかけとなったあの時代までワープすることも出来ず、今居るSOS団の面子とも顔を合わせることすらなかったに違いない。三者三様、俺に協力をしてくれていたのだ。長門のおかげで面白い小説が読める。古泉のおかげで心置きなくゲームに勝つことが出来る。朝比奈さんのおかげでお茶の旨さを知った。 他の皆が俺を支援している理由なんて探せば山ほどある。どの一部がかけても俺は一人で道を進めないだろう。破天荒な団長にツッコミが出来ないというもんだ。 お前の言うとおり、俺はたいした能力を持たない無力な弱っちい人間だよ。 ‥‥‥でも俺は無敵だ。 窓ガラスが割れる音がして、二人分の着地音が聞こえた。朝比奈さんは「ひっ」と驚いたようだが、俺は振り向かずとも誰かは分かっていたから特段びびることもなかった。ゲームが弱い超能力者と万能宇宙人以外誰がいる? 「解析に時間がかかった」 長門の無機質な声が淡々とそう告げた。振り向いてやると二人とも埃まみれだ。切り傷や刺し傷がなさそうで良かったぜ。 「何が無敵よ」 偽ハルヒが嘲笑交えてそう言った。 「結局誰かの頼りになるんじゃない」 「そうだよ」 おくびれもせず開きなおる。俺もタチが悪くなったもんだ。 「俺には残念だが、宇宙人と互角に渡り合うほどの力はない。巨人と戦うダビデのような勇気も、タイムトラベル出来るほどの知恵もない。だがどうだ。そんな何も持たない俺の周りに、そんなすげー奴らが集まってるんだぜ。一人いりゃ充分なくらいなのに、三人揃っているんだぞ? そんな皆に支えられて、そして何よりも、」 一呼吸おき、目を閉じて寝そべっているハルヒの方を見る。 「ハルヒまでいるんだ。これが無敵とは言えずにいられるか?」 言えないだろう? 「‥‥‥なによ、皆そっちの涼宮ハルヒばかり気にして‥‥‥」 頼んでおいた仕事に失敗した部下を怒鳴りつける前のような上司ばりの不愉快さを露わにして、偽ハルヒは叫んだ。 「一体そっちの何がいいのよ!」 「有希、あんたにとって観察対象は涼宮ハルヒではなく、進化の可能性を秘めている能力を持った者じゃないの? 古泉君。神と崇める対象は一般の女子高生ではなく、世界を創造する能力を持ったものでしょ? みくるちゃん。時空のズレを発生させたそもそもの原因は、涼宮ハルヒの持つ情報爆発の能力じゃないの?」 三人とも押し黙り、何も答えれずにいた。宇宙人の派や機関、未来人の組織の中には、こっちの涼宮ハルヒを観察対象とするよう言っている奴もいるかもしれない。 「そっちのハルヒは忘れて、あたしの世界に来なさいよ。何もかも望み通りにしてあげる。有希が望むなら人間に、古泉君が望むなら超能力を消してもいいわ。みくるちゃんも、この時代に留まらせてあげる。だからあたしの世界に来なさい」 ‥‥三人は相変わらず沈黙をし、ただただ偽ハルヒを見つめていた。そりゃそうだ。あっち側に行く奴がいたら殴ってたところだ。 「何でよ‥‥‥」 歯車が歪み、思い通りに動かないおもちゃにイラつく子供のように叫んだ。 「どうしてなのよ!」 崩れ散る校舎でさえ響く偽ハルヒの声。外にいる神人も段々と透明になり始めてきていた。 ‥‥‥どうして、か。 そりゃな、お前。勘違いしてるぜ。 長門も古泉も朝比奈さんも、宇宙人、超能力者、未来人であってのSOS団じゃない。SOS団内の宇宙人、超能力者、未来人なんだ。そこの順序が大事なんだよ。 「そっちのハルヒにはもう何も残ってないじゃない‥‥‥」 偽ハルヒの目は、少しだけだが潤んでいた。 「どうしてあんた達は、そのハルヒを守るのよ!?」 ‥‥‥‥‥‥、いつだってそうだ。 ハルヒが何か思いつけば、誰もがそれに従ってしまう。古泉はただニコニコと笑ってるだけだし、長門は本を読んで我関せずだ。朝比奈さんはオロオロして、賛成が二で棄権が二だ。ここで誰が何と言おうとハルヒの催しは通ってしまい、いらぬ苦労を俺たちが抱え込んでしまう。そんな未来が待っているのを分かっていながらも、このまま好き勝手させては今後ハルヒはもっとトンでもないことをしでかすかもしれない危険性があるので、一応反論しておくのだ。そう、主に俺が。 今もそうだ。偽物とはいえハルヒはハルヒ。そんなハルヒの言葉に反応出来るのは、この三人ではないのだ。だから、言ってやった。 「団長を守るのに、理由がいるか?」 ハルヒ。目を開けて、周りをよく見てみな。 お前があんなに会いたがっていた宇宙人と未来人、超能力者がお前のために集まってきてくれたぜ。どうしてか分かるか? みんなお前のことが好きだからだよ。 「‥‥‥ふ、フフフ‥‥‥キョンったら‥‥」 偽ハルヒは人を小馬鹿にするような笑い、そして天井を見上げた。真上はSOS団の部屋だ。 「あんた達がどうしてもそっちのハルヒにつくって言うのなら、もう構わないわ。でも世界が入れ変わるまで一分弱‥‥‥今更何しても無駄よ」 な、残り一分弱だと。もうそんだけしかないのかよ!? 偽ハルヒがこちらに背を向け、教室から出ていこうとする。逃すものか。 だが俺が追いかけようとした瞬間に、真上の天井が亀裂が入った。まさか、と思う寸前で誰かに襟首を捕まれ引っ張られた。尻からこけ、 「いってーな!」 と思わず条件反射で文句を言ってしまったが、崩れさる天井の騒音でその声はかき消された。襟首を引っぱったのは長門か。じゃあ理不尽な文句が聞こえてるなこりゃ。Ⅴ 安全だと思われていたSOS団の床はとうとう抜け、俺たちと偽ハルヒの間に瓦礫の山を作ってしまった。上では神人が完全に校舎を破壊しており、その瓦礫の破片も容赦なく降り注いでくる。どうすんだおい。 「古泉!」 古泉の赤い球に期待するしかない。あれで急いでこの瓦礫の山をぶっ飛ばし道を作らないと、時間が! 「ダメです‥‥!」 右手を見てみれば、ピンポン球のよあな小さな赤い球しか浮いていない。もっとでかいの作れないのか。 「能力が‥‥失われつつあります。こちらが現実に変わろうとしているんです!」 そんな‥‥じゃあマジでヤバいじゃないか。どうすんだよ!? そんな非力な三人をよそに、長門は瓦礫にかけより、なんと瓦礫の破片を一つずつどかし始めた。まるでマシュマロでも掴んでるように素早く脇へと捨てていくが、しかしいくら長門とはいえこのスピードでは遅すぎる。もう30秒もないはずだ。その間にここをくぐり抜けて偽ハルヒを捕まえ、能力をハルヒに返すなんて無茶だ。不可能としか言いようがない。 「‥‥‥‥‥‥」 ‥‥‥何、諦めてんだ俺。 ザクザクとモグラのように瓦礫の山を掘り進んでいく長門を見て、そう思った。俺たちが守らなきゃならない世界を、どうして俺たちがこうも簡単に諦めて、代わりに宇宙人が頑張って守ろうとしているんだ。本当に頑張らなきゃならないのは俺たちの方じゃないか。 ‥‥‥諦めるものか。まだ、時間がある。もしないとしても、そう、時間を作ればいいのだ。 「朝比奈さん!!」 ハルヒのそばで涙目でオロオロしている朝比奈さんのもとへ駆け寄った。長門が時間内に掘り進めることを今は信じるしかない。 「五分前です!!」 「え、あ、ちょっと待っ‥‥」 待てない。時間がないんだ。 朝比奈さんの右手首をギュッと握った。まずい。窓から見える神人の姿が消えようとしている。 「朝比奈さん!!」 「申請がと、通りました。キョン君、目を閉じてくださ――――」 言われる前に目を閉じた。そしてすぐさまジェットコースターに乗ったかのような重力無視の感覚が四方八方から襲う。耐えろ、俺。耐えるんだ。 ‥‥‥キョンなら分かってくれると思ってた。有希や古泉くん、みくるちゃんが分かってくれなくてもキョンだけは分かってくれると思っていた。何故? これは私自身が‘涼宮ハルヒ’だから? それとも、私は私という、‘涼宮ハルヒ’に見目姿似ただけの別個体だからかしら? 分からない。‥‥分からない。 分かるのはもう彼らにはなすすべがなく、あたしは創造し終わった世界をどうしていくかを考えなければならないということだけ。やることは膨大にあるわ。とりあえずはコンビニね。コンビニ創ってご飯買って腹ごしらえしないと。そしてそのあとに校舎の創り直し。こんな校舎じゃ皆びっくりするわ。あ、あっちの世界にいるみんなをこっちに創らなきゃ。そして違和感ないようにいつも通りの日常を過ごしていた記憶を創りあげないと。そして、そして‥‥‥‥。 ‥‥‥‥‥‥、 考えれば考えるほど空しくなってきた。あたしは何がしたかったの。どうしてあたしは生まれたの。あたしは‥‥私は‥‥‥ この世界で何を望むの‥‥? ‥‥‥何発式なのかは分からない。だが撃つチャンスは一度しかない。時間的にも、相手がハルヒということも含めてだ。だから俺は、教室の扉を偽ハルヒが閉めた瞬間、すぐさま目の前に踊り出た。 「っ‥‥‥キ、キョン!?」 『ためらわずに』 カチッと、引き金を引いた音がした。銃弾が出たわけでも、針が出たわけでもなかった。本当に出たかどうかさえも分からない。だが目の前のハルヒの様子を見る限り何かは当たったようだ。 「‥‥‥っ!」 おでこを抑え、扉にもたれかかり、どんどん力が抜けていくかのように膝が床についた。ガクリと左手の手のひらを床につき、苦しそうに俺を見上げた。ズキンと胸が痛くなる。 偽ハルヒは‥‥‥ハルヒは、泣いていた。 「‥‥‥悪いな、ハルヒ」 朝比奈さんは急いでもう一人のハルヒの方に近づき、うなだれるハルヒを揺さぶっていた。死にそうな目に合わされた相手だと言うのに、朝比奈さんは一緒に泣いていた。ハルヒはわずかに頬に涙が流れる程度だったが、朝比奈さんはわんわんと泣いている。ハルヒのこんな表情見てしまったら、もし一人だったなら俺だって朝比奈さんのように泣いていたかもしれない。目頭が熱い。 「‥‥‥やっと、」 最後の力を振り絞ったかのような声だった。ハルヒのまぶたはもう閉じようとされている。‥‥まるで、‥‥永遠の眠りにつくかのように。 「‥‥‥ハルヒって、呼んでくれた‥‥」 ‥‥‥物理的な力を失い、廊下に完全にハルヒは倒れた。麻酔銃の効果だ。眠ったらしい。 眠っただけなのだ。何も死んだわけじゃない。死んだんじゃないんだ。 ‥‥‥なのに。 こんなにも涙が出るのはなんでなんだ。 ハルヒと呼んでやっただけで、どうしてそんなに満足そうな顔出来るんだ。お前は‥‥これから、いなくなってしまうのに。 ハルヒ、どうしてお前は‥‥‥‥‥‥。 バンッと誰かが教室のドアを押し倒してくる。とっさにハルヒを引きずり、下敷きになるのだけは免れさせた。誰だ一体‥‥‥と、そんなことするのは、今この状況には一人しかいないか。 長門だ。 「涼宮ハルヒに能力を返す時間はない。したがって一度私が世界を改変する」 「ま、待て長門。急にそんなこ‥‥」 そんな俺の言葉を全く聞きもせず長門はハルヒに手をかざした。能力なんてそう簡単に取ったり取られたりするもんなのか? 俺がハルヒの持つ能力とやらをどういう形をしているのか確認しようとした途端、朝比奈さんの切迫詰まった声が聞こえた。 「強力な時空震がきます。キョン君、目を閉じて!」 ほんの少しだけでいい。あのハルヒが保持していたものが見たい。 だが長門の手の周りがぼんやりとした瞬間、とてもじゃないが目を開けてはいられなかった。頭がグラリグラリと重力を完全に無視し引っ張られ、鋭い痛みがあちこちに走る。気持ち悪くなってきた。頭を両手で押さえ、今自分がどんな体制でどこにいるのかさえも見当もつかないまま俺はひたすら歯を食いしばった。 まずい‥‥‥ 意識が‥‥ ‥‥‥‥。 『‥‥‥キョン』 →涼宮ハルヒの分身 エピローグへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2951.html
1 後ろの席の奴が、俺の背中をシャーペンでつついている。 こう書けば、下手人が誰かなど説明する必要はまったくないと言っていい。 なぜなら、俺の真後ろの席に座る人物は、この1年と3ヶ月余りの間に幾度席替えがあろうと、いつも同じだからである。 「あのなぁハルヒ。」 「何よ」 「そろそろシャツが赤色に染まってきそうなんだが」 「それがどうかしたの」 クエスチョンマークすら付かない。涼宮ハルヒは今、果てしなく不機嫌である。 去年も同じ日はこいつはメランコリー状態だったなぁと追想にふけることにして、俺は教室の前方より発せられる古典の授業と、後方より発せられるハルヒのシャーペン攻撃をしのぐ。思えばこの日は俺の今までの人生の中で最も長い時間を過ごしている日で、それは俺がタイムスリップなど無茶なことを2回もしているからに他ならない。 俺の、そして恐らくはハルヒの人生でも印象深い日。今日は七夕である。 去年と違うのは、こいつの憂鬱の原因を知っていることだが、かといってまさか「俺はジョン・スミスだ」などと言う訳にもいくまい。切り札はとっておかねば。というわけで、やはり俺はハルヒに小突かれ続けなきゃいかんらしい。今日は早めに学校を出て俺の家でSOS団七夕パーティーをやることになっているんだが、この機嫌で大丈夫なのかねぇ。ともかく、早く朝比奈さんのお茶が飲みたいね。俺にとっちゃ「かいふくのくすり」以上の効き目があるからな。あれは。 そんなこんなで終業のベルが鳴り、俺はさっさと部室へ退避する。 「はぁーい。」 ノックに応えてくれた朝比奈さんはすでにメイド服に着替えていて、いつものごとく俺に熱いお茶を淹れてくれた。俺は団長机に腰掛けてパソコンの電源を入れ、SOS団公式(学校的には非公式)サイトを開く。 「内容がない」というサイトのカウンタが回らない根本的な原因にようやくハルヒは気づいたようで、数週間前から活動日誌を団員持ち回りで更新するという面倒な行為を始めたのだが、長門が更新した回は数秒で読み終わるか、読み終えるまでに数時間はかかるとてつもなく長ったらしいコンピュータの話になるかの両極端だし、朝比奈さんが書いた文章はハルヒによって却下され代わりに写真をアップロードされているし(俺が気づいて削除したのはつい3日前だ)、古泉は古泉で長々しいミステリ論ばかりだし、ハルヒに至っては言いだしっぺのくせにサボるか、意味わかんない方程式だのを書くかなので、まともに日誌と呼べるのは俺が更新した分だけなんじゃないか? 「カウンタの回りが数倍にアップしたんですし、いいじゃないですか」 「そうは言うがな。古泉。」 「涼宮さんも満足げですし、問題ないですよ。彼女の精神の安定に寄与していることは間違いありません。精神自体はここのところ不安定ですがね。ま、今日はさらに安定しないでしょう」 まさにその通りだよ。痛む背中をさすりながら、今日のハルヒの様子を説明してやる。テーブルに座って本を読んでいる長門にお茶を渡すと俺の隣に来た朝比奈さんは、 「七夕は色々ありましたもんね」 と話しかけてきた。 「そりゃそうですね。タイムスリップしたり、世界を再改変したり――」 俺の回想はドアがノックなしに勢いよく開く音で中断された。一瞬の間。 「やぁ、ごめんごめん。遅れちゃった」 おい待てお前。さっきまでの不機嫌はどこいったんだ。去年と同じように竹を担いだハルヒが、にんまりと笑いながら入ってきた。全く、谷口によく似た人間をアシスタントにしている某番組のナビゲーターよりも態度がコロコロ変わる女だ。 「今年もみんなで願い事を書くのよ。毎年メッセージを送り続けなきゃ織姫と彦星だって忘れちゃうわ。」 今年もってことは、その竹もまた私有地の裏林からパクってきたのか。 「バレなきゃいいのよバレなきゃ。」 ハルヒは窓際に竹を置くと、俺を押しのけて団長席につき、中をゴソゴソと引っ掻き回し、短冊を取り出す。 「ちゃっちゃと書いて、早めにキョンの家に行きましょ」 実を言うと、俺の違和感は、この時からすでに始まっていた。 さて、何を書こうか。ヒントを得ようとハルヒのをみると、「彦星とさっさとくっついちゃいなさい」「織姫とさっさとくっついちゃいなさい」と書いてあった。 こいつにしてはなかなかロマンチックじゃないか。 「ちょっとキョン!なに見てんのよ。馬鹿なことしてないでさっさと書きなさいよ」 見えるように置いとくのが悪い。大体なに照れてんだよ。 「べっ、別に。」 ちなみに他の3人はというと、駄目だ、去年と似たり寄ったりで参考にならない。悩んだ挙句俺は、「毎日楽しい日々を過ごせますように」「無事に天寿を全うできますように」と書いたのだが、 「ふーん」 俺の短冊を見たハルヒは、なぜか複雑そうな顔をしている。 恐らく、この短冊が最終的な引き金だったんだろうな。 2 この後俺たちは全員そろって俺の家に移動して、何かの記念日を建前にかなりの頻度で開催されるSOS団的パーティーを楽しんだ。いつもそうだが、ドンチャン騒ぎである。途中で妹が乱入してきたのでなおさらだ。ハルヒがいつかの孤島の反省から酒をNGにしていなかったらと思うとゾッとするね。ツイスターやら2台つなげたノートパソコンやらありとあらゆる物が部屋の中に展開され、これを見て楽しくなさそうという感想を抱くものは一人もいないだろうな。 だが、なんだろう。この違和感は。 みんな楽しそうだったにもかかわらず、俺は漠然とした違和感を持ち続けていた。その正体をつかんだのは、すでにパーティーが始まってかなり経ってからだった。 それはほんの些細な違い。だが俺には、ハルヒのが無理をしてハイテンションを装っているように感じられたのだ。これはハルヒの精神分析医になれそうな古泉も同意見なようで、階下に飲み物を取りに部屋を出た俺は、古泉の「トイレに行ってきます」という声を聞いた。 「涼宮さんの様子がおかしいのはあなたもお解りでしょう。いやな予感がします」 廊下での会話だ。 「一体何が原因なんだ?」 「先ほど部室で言いそびれましたが、涼宮さんの憂鬱の原因は単なる七夕の思い出ではないのでしょう。彼女ははあなたを疑っているんですよ。」 「どういうことだ?」 「あなたにはお解りのはずですよ。とにかく、気をつけてください」 それだけ言うと、古泉は戻って行ってしまった。分かるような分からないような。どうすりゃいいんだ? 結局、その後しばらくして、パーティーはお開きとなった。帰っていくときのハルヒにも、無理している感じは残っていた。 自分の家でこういう行事をやることにはメリットとデメリットがあり、メリットは家に帰る手間が省けること、デメリットは騒ぎで部屋が見事にカオス状態と化すことである。いつもお嬢さまと少年執事に散かされた部屋を片付けるメイドさんの気持ちが良く分かる。しかし、帰るのと片付けるのではどっちが手間がかかるんだろうね。そんな事を考えながら部屋を片付けていると、くそっ、ノートパソコンの電源が付きっぱなしじゃねぇか。「キョン、あんたが明日持ってきて」と命令し、俺の反論は都合よく聞かずに放置してってんだから、電源ぐらい切って帰れてーの。 電源を切ろうと本体を開くと、テキストエディタが起動していた。 YUKI.N あなたはあなたの思う通りの行動をとればいい。 実に長門らしい、簡潔な文章である。だが長門がこういうメッセージを残すということは、何かが待ち構えていることと同義なのだ。 風呂に入り、俺は床に就いた。異様なプロフィールを持つ3人からの追加連絡はなかったからな。 3 うん、「また」なんだ。済まない。また俺はここに来ちまったようだ。 もう今度はレム睡眠談義は不要だろう。 ――キョン、起きて―― 予想通りというべきか、俺の夢にハルヒの声が乱入してきた。あまりいい夢ではなかったから惜しくはないけどな。 また首を絞められるのは嫌だと思いつつ、そんな思念だけで起きられるものなら俺は毎朝学校に行くときに苦労しない。結局、めでたく俺はまたしてもハルヒに首を絞められる運びと相成った。 さすがに目を開く。やはりというか―― 記憶そのままの奇妙な光に照らされた学校であった。 セーラー服を着たハルヒが俺の顔を覗き込む。ということはと思い、自分の体を確認してみると、やはり着ているものはスエットではなく制服だった。 「何なのかしら、ここ。去年と同じよね?」 「どうやらそうみたいだな」 さすがに2回目ともなると、ハルヒも驚いていない。 「キョン、とりあえず部室に行かない?」 その意見に否やはなかった。どうせそこ以外に行くところはないしな。パソコンを起動したらまた何かあるかもしれん。 荒々しくも手っ取り早い方法で職員室から「ぶしつのカギ」を手に入れ、部室棟へと向かう。 「あんたと話したいことがあるの。」 部室に着くなり、ハルヒはこう切り出した。普段は見せることのない、寂しそうな、不安げな、弱気な表情である。 「あんた、あたしに何か隠してない?」 さて、何のことだろう。心当たりがないのではなく、ありすぎて何のことだか分からないのである。 「この間、あんたが休みの日にみくるちゃんや有希や古泉君と一緒にいるところを見たのよ。それと、」 そう言いながら、ハルヒはそれ取り出した。 それは、 1年前のこの日、長門から受け取り、4年の時を過ごした、ハルヒの考えた宇宙人語が書かれた短冊だった――。 「あたし、昨日あんたの家に勉強教えに行ったでしょ?あのとき、あんたがトイレに行ってる間に、何気なく箪笥の引き出しを開けてみたら、これが出てきたの」 なるほど、疑うというのはこのことだったのか、古泉。しかし、自分の迂闊さのせいでまたしても世界崩壊の危機に直面することになるとは。 どうする?俺。だが、答えはすでに俺の胸にあった。 「この短冊に書かれている記号はね――」 「今から4年前にお前が東中の校庭に書いた、馬鹿でかいミステリーサークルのと同じ記号で、意味は『私は、ここにいる』だろ?」 このとき俺には、全てをブチ撒ける覚悟ができていた。世界がどうなろうともうどうだっていい、と思っていたわけではない。全てを曝しても、こいつは世界を変えることはないという自信がなぜかあったからだ。 「4年前の今日、東中に侵入したのはお前一人じゃない。女の子を担いだ高校生が一人いて、お前の線引きを手伝った」 ハルヒの表情が、不安から確信へと変わってゆく。 「俺は、ジョン・スミスだ」 4 「やっぱりね」 それから俺は、ほとんどの真実をハルヒに話した。ただ、こいつが神だとか進化の可能性だとか時間の歪みだとかというところは、改変された世界のこいつに対してもそうだったように、世界を変化させる力があるらしいことだけにとどめておく。俺にだってどれが本当なのかわからないしな。 殺風景な部屋で長門の電波話を聞かされたことから始まり、マッドな朝倉の襲撃、大人版朝比奈さん、閉鎖空間と神人、七夕の時間遡行、カマドウマ、15498回も繰り返された夏、映画撮影、改変された世界、それらにまつわる未来人・宇宙人・超能力者の組織・・・ 話していると、それぞれの光景が脳裏によみがえってくるようだった。俺の大切な思い出たち。それを今まで、目の前にいるこいつは知らなかったのだ。 そういえば、この閉鎖空間に神人は出現していないな。前回ここに来たときはもっと早く現れていたが、つまり、ハルヒの精神状態はイライラではなく、2人でここに来た理由もイライラではないのだろう。 言うべきことを全て言い終え、さてどうしたものかと考えていると、 「今度はあたしからも伝えることがあるの。」 って、まさかハルヒにも、俺に隠していたことがあるのか? 「そうよ。でも、あなたがジョンだって分かってない限りは伝えられない話なんだけどね。」 一呼吸おいて、 「あんたが去年の夏と冬から来たっていう4年前の七夕、なんであたしはあんな大きな図形を書こうとしたかわかる?」 あたしは宇宙人とか、未来人とか、超能力者が目の前にフラッと出てきてくれることを誰よりも望んでた。中学に入って、いろんな、そのときのあたしが考えられる限りの全ての方法で、何とかして特別な存在を見つけようとしていたの。 でも、何も出てこなかった。それに、周りの人たちが私を避けるようになった。そりゃそうよね。小学生のときのあたしがあれを見てもきっと避けてたと思うわ。だから、野球観戦に行ってから色あせたように感じてたあたしの日常は、限りなく無味無色になってしまったの。誰も自分のちっぽけさに気づいてない。誰もあたしのことを解っちゃくれない。だからね、あたし、決めてたの。 ――あの七夕の日、あの校庭にメッセージを書いて、そこに屋上から飛び降りて、全宇宙にメッセージを発信してやろうと。 家の自分の部屋には遺書をちゃんと残したし、もう図形を書いて飛び降りる以外にすることはなかったはずだった。 でも、校門をよじ登ってるとき、予想外のできごとにあった。あんたと出逢ったわけね。あのときのあんたほど、私の印象に残った人間はあんた本人以外ないわよ。「やれやれ」とかいいながらも、あたしを手伝ってくれて、宇宙人も未来人も超能力者もきっといると言ってくれた。 だから、あたしは、死ねなかった。やることが残ってしまったの。やるなら最後まで徹底的に不可思議な存在を探してやろうと思った。高校に入って、高校生になったあんたに出会うまで、ジョン――キョンはあたしの唯一の心の支えだったの。だからSOS団を作れたのも、今こんなに楽しい毎日を過ごせてるのも、ぜんぶキョンのおかげ。 このときの俺がどんな表情をしていたか、キャプチャー職人がいたらアップロードしてほしいぐらいだね。しばらくの沈黙の後、ハルヒは再び口を開いた。 5 「それからね、あんたの話を聞いて一つ不思議なことがあるのよ。あんたが前に会ってた佐々木って子、あの子もここみたいな、閉鎖空間って言うんだっけ?を持ってるのよね?」 「それはまず間違いないな。なんせ俺が実際に入ったんだからな。」 「実はね、あたし、あの子の顔を見たことがある気がするのよ。」 「確かに4月の頭に駅でお前と佐々木が出会ったときも、初対面にしては2人とも変だとは思ったが。でも、お前は佐々木のことを何も知らないんだろ?」 「そうよ。でも、・・・ううん、説明すれば分かると思うわ。あんたはあたしに変な能力が発生したのは今から4年前だって言ったわよね?あれは忘れもしないわ。」 中学に入って、あたしが世界に訴えようとする行動を始めて周りから避けられ始めて少しした日の夜、変な夢を見たの。 なんか自分がワープしてるような感じがする、変な空間を猛スピードで移動してる夢だったんだけど、自分が進む先に女の子が一人いたの。その子が移動するスピードはあたしより遅くて、しばらくして追いついたのね。そしたら、その子があたしの方を向いて、 『全てを君に託すことにしたよ。君ならうまくできると思うよ。よろしくね』 って言ったの。あたしは意味がわかんなくて、とりあえず『うん』って言って、もう少しまともな答えをしようと考えたの。でも、気が付いたら、その子はあたしよりずっと後ろの方にいた。 彼女は一回うなずくと、全身から、白い、まばゆい光を発したの。その光はあたしの方に向かってきて、次の瞬間、あたしは光に包まれた。その光が自分の中に入ってくる感覚が気持ち悪くて、そこで目を覚ましたの。 「その女の子が佐々木じゃないか、ってことか。」 「そう。今でもその夢は鮮明に記憶に残ってるの。去年あんたとここに来たのが夢じゃないって解ったから、あたしが覚えてる夢で一番はっきりしてるものに昇格したわ。もしかして夢じゃなかったのかしら。」 「その可能性もあると思うぞ。」 口ではそう言ったが、俺はその記憶が夢であるとは微塵も思っていなかった。ハルヒもそうなのだろうが。そうなると、ハルヒの能力がどこから来たのか、説明がつくことになる。そしてその能力がどういう形態をしているのかもな。 「いや、俺は夢じゃないと確信している」 何故だかは解らない。ただ、自分の心中に反することを言ったことに心が疼いたのだ。もう、こいつに対して隠すべきことはほとんどないのだ。俺の部屋のベッドの下のようなものを除いてはな。いや、それすらも隠すべきではないのかもしれない。って、なに考えてんだ、俺。 6 「あんたがジョンだって可能性は、入学したときからずっと考えてたのに、いざ本当となると結構混乱するのね。てことは、SOS団の名前の由来も知ってるわけよね。」 「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく、だろ?」 「そう。でも、本当はもう一つ意味をかけていたの。SOSそのままの意味よ。この団なら、色のないあたしの日常を救助してくれるんじゃないかってね。」 「・・・」 俺は、しばらくの間、言葉を返せなかった。毎日が限りなく退屈に感じられる日常とは、どのような心地がするものなのだろうか。今、こいつは幸せなのだろうか。いや、何かあるからこそここに俺を連れてきたんだ。それは何だろうか。それはずっと俺が感じているモヤモヤと同じなのかもしれない。 「あたし、バカよね。」 「いきなり何を言い出すんだ」 「だって、去年この世界から帰ってきたあとの喫茶店で、あんた真相を言ってくれたじゃない」 ああ、軽く一蹴された挙句、財布持ってないからと奢らされたあの喫茶店での会話か。 「しょうがねえよ。あんな話を突然されて信じるような奴がいたとしたら、そいつはオレオレ詐欺に何回も引っかかるだろうよ」 「自分で望んでたくせして、目の前の真実をむざむざ見逃すとはね。でも、今なら例えあんたがどんな突飛な話をしても、信じる自信があるわ。」 俺が感じているモヤモヤは、今までにない速さで輪郭を形成しつつあった。 「そんな事を言うなら、俺もカマドウマ並みの阿呆だな。」 「コンピ研の部長の家に出たっていうあれ?」 「はは、それに違いない。真実をブチ撒けたのに、まだお前に話せていない大事なことが2つもあるからな。」 「一つ目。俺もかつてはお前が望んでいたような世界を望んでいたんだ。だが、俺はそれを早々に諦めてしまった。だから、高校に入ってお前を見たとき、正直お前の生き方が羨ましくなった。かつて望んでいたような世界が現実になって、やれやれと不平をたらしながらも、俺はこの日常が楽しくてしょうがないんだ。」 「心配しなくても、そんなこと解ってるわよ。あんたを見てれば解るの。」 しばしの沈黙。 なぜここで沈黙かって?モヤモヤが完全にはっきりした俺にとって、二つ目の『大事なこと』を告げるのには勇気が要ったからだ。ハルヒはハルヒで何かをしようかしまいか迷っている表情をしている。 俺が少ししかない勇気をかき集めて口を開こうとしたまさにそのとき、ハルヒが言葉を発した。 「そんなこと、言うなら、あたしにも言うべきことがあるわ。・・・あたしね、あん――」 「おっと、俺の二つ目がまだ言い終わってないぜ。 ハルヒ、好きだ。」 「ちょっとキョン!先に言わないでよ!あたしだって、・・・あんたのことが、・・・好きなんだから・・・」 こんなに赤くなったお互いを見たことはないと断言できる。だが、そんなことは、今の俺たちには関係ないね。 「キョン。」 「ハルヒ。」 ごく自然と、真っ赤なハルヒの顔が接近してくる。ハルヒが接近してきたか、俺が接近したかなんて、もう、俺にはわからない。 俺たちは、唇を重ね合わせた。 さまざまな思念が、奔流となって、俺の頭の中を駆け抜ける。やがて、その全ての思いが、一点へと収束していく。すなわち、こいつ、涼宮ハルヒを愛しむ想いへと。こいつとずっと一緒にいたい、そう思った。 永遠とも思える時間のあと、不意に俺は重力の消失を感じた。そういえば今いた場所は閉鎖空間だったか。 ってことは、次に気が付くのは、自分の部屋の、自分のベッドの上か。 この予想は間違っていなかった。予想通り、次の瞬間にいた場所は、俺の部屋の、俺のベッドの上だったが、二つの点で、前回閉鎖空間から戻ってきたときと異なっていた。 つまり、一つ目は俺「たち」が制服を着たままだったことで、もう一つは今の表現からお解りの通り、俺とハルヒは抱き合い、唇を合わせたままだった。 さて、ここから翌朝までは、記述を差し控えさせてもらおうか。 7 翌朝、俺がハルヒを家族に見つからないように外に出すのに、負傷した女スパイを導く某ダンボール使いの潜入のエキスパート並みの細心の注意と行動を要したのは、言うまでもないだろう。 鞄を取りにハルヒの家に立ち寄った後から学校に到着するまで、俺らが手を繋いだままで登校したせいか、「俺とハルヒがくっついた」という噂は、ハルヒと朝比奈さんがバニーガールの衣装でビラ配りしたあの伝説の事件の噂よりも早く広まった。授業中も俺のほうを向いてはニヤニヤしていた谷口は、 「キョンにはお似合いだと前から思ってたぜ。てかお前にはあいつ以外に合う奴がいねえだろ。」 などと言っていた。つーかお前も早く彼女つくれよ。 その日の古泉との会話である。 「僕にとって、一番興味深かったのは、涼宮さんが言っていたという佐々木さんの話ですね。」 「あれは俺も俺なりに考えてみたんだが、佐々木がハルヒにあの能力を渡したってことなのか?」 「簡単に言えば、そうなるでしょう」 「だが、それなら橘京子たちの組織はもっと昔からあってもいいようなもんだが」 「そこですよ。ちょっと推測してみましょう。佐々木さんのような人が、自分のイライラを制御する組織を必要とするでしょうか?答えはノーです。僕たちの『機関』も、彼女たちの組織も両方とも涼宮さんが創り出したと考えるのが妥当でしょう。」 「よく意味がわからん」 「涼宮さんがあの能力を得たときのことを考えてみましょう。突然能力を得たと知った、彼女の無意識下の理性は、どう考えるでしょうか?ここで二つのパターンが予想されます。一つは、自分を制御してくれる存在があれば大丈夫だろうという、どちらかという楽観論的な思考です。そしてもう一つの思考パターンは、自分がこの能力を持つことは危険だ、だから元の持ち主に戻すべきだという、若干悲観論的な考え方です。」 「ってことは、」 「僕たち『機関』は、涼宮さんの前者の理性を反映し、橘さんの組織は後者の理性を反映しているのですよ。だから、涼宮さんの理性がせめぎ合っていたように、僕たちも敵対していたのでしょう。」 古泉は続けて、 「ですが、これからは、橘さんのほうの組織は衰退していくでしょう。涼宮さんの中で、自分は『能力』を持っているべきだ、という考えが強くなるからです。彼女が能力を持っていたからこそ、僕たちはここに一同に会することができたのですから」 「まだ解らんことがある」 「どうぞ」 「なぜ佐々木は『能力』をハルヒに渡したんだ?」 「これも僕の推論ですが、佐々木さんは世界が自分の思い通りになって欲しくなかったんでしょう。そして、4年前、何かで世界が自分の思うように変わってしまうのを見てしまう。彼女はこの能力は自分には必要ない、もっとこの能力にふさわしい人のものであるべきだと考えたのでしょう。」 「それがハルヒか。」 「そうです。涼宮さんは不可思議な現象を誰よりも望んでいました。だから彼女に『能力』が授けられたのでしょう。ともかく、そのように考えた佐々木さんは新しい世界を創造し、そこに1日前の時点の全てをそっくりそのまま移動した、このように考えると辻褄が合います。」 「ハルヒが言ってた移動する感覚はこのことか。待てよ、すると、未来人が4年前より前に遡れないのも・・・」 「その通り。世界が存在しないのなら、遡りようがありませんからね。」 その後のことを、少し話そう。 それからも、ハルヒが事の真相を知っていること、俺とハルヒが一緒にいる時間が増えたことをを除いては、以前と同じSOS団的な日々が続いた。相変わらず違う時空の未来人やら天蓋領域やらとドタバタも続いたが、今度は本当に5人全員で切り抜けてきた。夏休みの合宿第2弾やら、映画やら、バンドやら、相変わらずである。 以前、長門や古泉や朝比奈さんが心配していた「ハルヒが真相を知ることによる弊害」は起こらずに済んだ。その理由を一番端的に表しているのは、ハルヒの 「こんなすごいこと、他の人に知らせたらもったいないじゃないの。これはあたしたちSOS団だけの秘密なんだからね!」 という科白だろう。 ――時は変わって7年後、今日は7月7日、いわずと知れた七夕デーだ。 今日は、7年前と同じく、SOS団パーティーが開催される。 今年の七夕パーティーは、SOS団のパーティーでは史上2番目に壮大なパーティーになるはずである。 ここまで言ってしまえば分かる人は解ると思うが、史上最大は去年の今日である。 スペックの異様さを除けばほぼ普通の人間になっている長門や、以前のように偽りではなく、屈託なく笑うようになった古泉とはしょっちゅう会っているが、朝比奈さんには去年の今日、久しぶりに会った。記憶そのままの朝比奈さん(大)の姿で。彼女によると、自分がこのパーティーに参加するのは「既定事項」であったそうな。 以前は七夕になると、決まってブルーになっていたハルヒだが、今はそんなことは全くない。 何でかって?決まっている。 ――今日は、俺とハルヒの、結婚一周年の記念日だからだ。 P.S おっと、書き忘れたことがある。実は今日のパーティーは、ハルヒの妊娠祝いも兼ねているんだ。しかし、名前を考えるってのは、妙に気恥ずかしいな。 完